「中村佳穂のライブの魅力について書いてください」と依頼をいただきました。そこで改めて、彼女を初めて知った時、初めて聴いた時、初めて逢った時、初めてライブを観た時……と、すべての時をまとめて丁寧に書いています。言葉にするのが野暮なくらいの才能の持ち主ですので、拙い言葉ではありますが、少しでも彼女の魅力を伝えられたら本望です。
中村佳穂の音楽から感じる渦巻いてるようなエネルギーは、いったい何だろうか?
私が遅ればせながら、彼女の魅力に気付いたのは、去年11月にリリースされたアルバム「AINOU」のタイミングでした。
2016年に1stアルバム「リピー塔がたつ」をリリースして、同年 FUJI ROCK FESTIVAL 出演もされていたので、名前は知っていましたが、音源を聴いた事もライブを観た事もなかったんです。京都精華大学出身のシンガーソングライターというくらいしか、彼女への知識はありませんでした。だからこそ、しっかりと聴いてみたいと想い、良い意味でフラットな気持ちで、「AINOU」を聴く事にしました。シンプルに言うと、とんでもない衝撃を受けたのですが、その衝撃がどういうものだったかと言うと、渦巻いてるような異様なエネルギーというか…。こんな仕事をしているのに、あれですが、簡単に言葉にできないというか、逆に簡単に言葉にしたくない、言葉になんかしなくても、心に感じたままで良いじゃないかとさえ思えたのでした。
その時、すでに知っていたのか、それとも後から知ったのかも定かではありませんが、このアルバムは約2年半に渡って行われた合宿レコーディングで完成した作品です。そうやって煮込んで作ったからこその濃さはあるのですが、コアにマニアックに深く閉じた感じが一切なくて、全体的にポップに突き抜けていると最初に感じたことだけは、しっかりと覚えています。「AINOU」はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が設立した音楽の新人賞APPLE VINEGAR Music Award 2019大賞を受賞したり、彼女自身も「関ジャム 完全 燃SHOW」、「バズリズム02」などのテレビ番組で大きく取り上げられました。最近では、米津玄師がTwitterで絶賛したことも話題になりました。
中村佳穂インタビュー時には、頭の回転の早さに脱帽
私はインタビュアーでもあるので、とにかく実際に逢ってみて、この音について聴いてみたいと思いました。ちゃんと本人の口から聴かないとわからないですから。ありがたい事に、すぐに逢って話を聴く機会はあったのですが、またもや衝撃を受けてしまいました。あまりにも彼女の頭の回転が速すぎて、まったく話についていけないのです。
話している中で、何度も何度も振り落とされる感覚。約20年インタビュアーをやっていて、それなりの経験はありますし、最近は彼女のような20代の演者の話を聴く事も多くなってきているのに、今までまったく体験した事のなかった時間でした。最近の20代の演者の中には、自分の作品を自分の言葉で伝えるのが苦手な人も多い中、彼女は自分の言葉をきちんと持っている上に、インタビュアーを振り落とす程の圧倒的なエネルギーがありました。
とても刺激的な時間で充実感はありましたが、インタビューが終わった瞬間は、このインタビューを上手くまとめられるのかという不安すらありました。演者を簡単に天才と表現するのは、書き手として脳がないようで好きじゃないのですが、彼女の事は心から天才だと思いました。
また、インタビューで特に印象に残ったのは、即興が得意な凄腕のバンドメンバーたちに「ドープ禁止! ポップネス!」という言葉です。コアにマニアックに深く閉じた感じが一切なくて、全体的にポップに突き抜けていると感じたのは、間違いではなかったのだと思えました。
初めての中村佳穂ライブで受けた衝撃
そして今年2月、ようやく初めてライブを観る事ができたのです。ステージに現れた彼女はフランクに喋り出したかと思えば、唐突に歌い出しました。その歌い出しに鳥肌が立ったことを覚えています。確かに事前に頂いたセットリストには『1 アドリブ ソロ』と書いてありました。
確かにその通りなのですが、それにしても本当に、こんな感じで始まるのだという驚きしかなかったのです。音源は愛聴しているし、一度インタビューでも話しているのに、何せライブは初めてですから、ただただ戸惑うしかありませんでした。この日は彼女にとって大先輩であるGRAPEVINEとの対バンイベントで、それも800人くらいの多くの観客が集まっていたのですが、何も遠慮する事なく自由に即興アドリブでぶちかましていく姿は、ただただあっぱれでした。
彼女とバンドメンバーの演奏は、めまぐるしい展開のセッションで、インタビューと同じく振り落とされる感覚なのですが、当の本人たちは楽しそうに笑っていました。曲から曲の繋ぎ目がどこかもわらなくなるくらいのスリリングなライブでしたが、途中でセットリストに載っている曲とは、明らかに違う曲が演奏されました。薄っすら気付いてはいましたが、この時に本格的に思ったのです。
彼女のライブは下手に何かを考えたりするのではなく、その瞬間、その瞬間を感じるものなのだと。ずっと即興アドリブセッションの連続なわけでもありますし。それも彼女だけでなく、メンバー全員が、そのスタンスなのです。「これは何を観ているんだ!?」という感覚にすら陥りました。それは、ある意味、アルバムと同じレベルのエネルギーの衝撃。
アルバムは良かったけど、ライブでは再現できてなかったなんて事は山ほどありますが、彼女の場合は再現するどころか、また新たな表現を作り上げてしまっているという感じです。
今までまったく観た事のないライブを観たというのが、正直な感想です。人間って面白いもので、凄すぎるものを観たら笑ってしまったり、泣いてしまったりします。個人的には、彼女のライブを観ていると泣けてしまうのです。凄すぎるものを体感できている事に感動して泣けるのでしょうか。当の彼女は、その凄さには無自覚で、セットリストの変化を話しても、元のセットリストを覚えてなかったりします。心底、本物なんだなと実感しました。
初めての中村佳穂ライブで受けた衝撃
とにかく言葉で表現するのが大変な人ですが、ここまで何とか彼女との今までの出来事をまとめてきました。
そして、「AINOU」から8ヶ月ぶりにリリースされた配信シングル「LINDY」では、オフィシャルの資料文章を書かせて頂きました。
打楽器や弦楽器を中心にしたサウンドで、よりダンサンブルでグルーヴィーな楽曲ですが、7月13日に恵比寿リキッドルームで開催されたワンマンライブでは和太鼓とセッションするなど、その進化は留まる事を知りません。7月26日から開催された FUJI ROCK FESTIVAL でもこの曲は演奏されましたが、弦楽器の穏やかなリフから始まり、そこに「ハッとして ピンときたんだ Lindy」という彼女のつんざきが入るとこが、本当に大好きなんです。否が応でも、それこそ本当にハッとしてしまうから。わずか20秒弱で掴まれるって、本当に堪らないですよ。
関西在住の私は両ライブともにYouTube配信で観ていますが、それでも俄然掴まれまくりました。もし、これを生で観ていたら、想像するだけで大興奮しかありません……。
最後に、何を言いたいかというと、先程も考えるのではなく、感じるものと書きましたが、音楽に詳しくなくても、フェスに行った事がなくても、ライブに行った事がなくても、一聴すれば必ず掴まれます、彼女の音楽は。そこから、TIME&MONEY&SOUL、すべての都合が揃ったら、ぜひとも彼女の音楽を生で体感しに行って下さい。とんでもない体験になると思いますので。
中村佳穂 twitter
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