東京、大阪と続いてきた『ストリップ歌小屋 2017』は、名古屋にて銀杏BOYZとの対バンにてファイナルを迎えた。銀杏BOYZといえば、00年代に結成され圧倒的な人気を誇ったカリスマバンドであり、青春パンクの象徴。クリープハイプのメンバーもファンを公言しており、相当な影響を受けている大先輩である。そんな先輩をゲストに迎えてのファイナルはどのようなものだったのか?
本記事では、銀杏BOYZとの対バンの様子をレポートするとともに、『ストリップ歌小屋 2017』とは何だったのかを総括します。
Text_Sotaro Yamada
Edit_司馬ゆいか
銀杏BOYZという偉大な先人
会場となったZepp NAGOYA。銀杏BOYZとの対バンということもあってか、満員の会場には、普段のクリープハイプの客層よりもやや年齢層が高めのお客さんが見受けられた。「ぽあだむ」と書かれたTシャツを着ている50代の男性や、「BABY BABY」Tシャツを着た40代くらいの夫婦がとてもカッコ良く見えた。
ライブが始まり、峯田和伸(Vo.&Gt.)が登場。会場から「ミネター!」と叫ぶ男たちの声が聞こえる。暗闇の中で、峯田は一筋の光が差したステージ中央でアコギを持ち、「銀杏BOYZ、名古屋に来ました。歌わせていただきます」と『光』を歌い始める。峯田が弾き語っている間に、メンバーたちがゆっくりとスタンバイ。弾き語りのパートが終わると、ほんの一瞬だけ空白を挟み、突如として、荒々しいバンドサウンドに変わる。ギター、ベース、ドラムの轟音が会場内に響き渡った。
峯田和伸(Vo.&Gt.)
銀杏BOYZは、ライブも音源も普通のバンドより音量が大きく、まさに轟音を響かせるバンドなのだが、近年流行りの美しさに美しさを重ねたようなロックバンドの曲に聞き慣れている人は、おそらく彼らの演奏に度肝を抜かれる。そのあまりの激しさと、暗黒舞踊のような峯田のパフォーマンスに、この日のオーディエンスは言葉を失った。圧倒的なものを前にした時、人は動けなくなることがある。そういった種類のポジティブな戸惑いを感じたオーディエンスが多かったのではないか。筆者は二階席で見ていたにも関わらず、振動が椅子に伝わってきて、尻が痛かった。
2曲目は『若者たち』。この曲でようやくオーディエンスは我に帰り、拳を突き上げ、前方でモッシュやダイブが起きる。今回の『ストリップ歌小屋 2017』対バンツアーもこれで3回目、東京と大阪で相手だったUNISON SQUARE GARDENもKANA-BOONも素晴らしいバンドだったが、さすがに銀杏BOYZはちょっと次元が違う。どんなバンドでも銀杏BOYZの前では霞んでしまうのではないか、そう思わせるほどに圧倒的だった。
MCでは「物販に並んでるお客さん見てたら、いつもの銀杏BOYZのライブと違って9割くらい女の子でびっくりした。でもこうやって見たらブサイクな男とリストカッターばっかでいつもと一緒だな」とオーディエンスを笑わせる。さらに「どんどん汚い手使ってでも生き延びてくださいね。生きることにカッコ良いとかカッコ悪いとか関係ないから」と強いメッセージを伝え、『骨』や『夢で逢えたら』を演奏。
さらに、「クリープハイプのことは、曲もメンバーも大好きです。クリープハイプのファンのみなさん、どうぞ誇ってください。日本にこんなバンド、他にはいません。彼らは水臭いこと嫌いだけど、ちょっと水臭いことをやってみます」と、クリープハイプの『二十九、三十』をカバー。かつて峯田はこの曲を「あんな曲が作れるんだからあと7年くらいは余力でいい」と語ったことがあるが、現在39歳、今年で40歳になる峯田が、後輩であるクリープハイプの『二十九、三十』をカバーしたことは感慨深い。
また、七月から三ヶ月連続でリリースするシングルから『エンジェルベイビー』を披露。初めてロックに出会った衝撃と思春期の恋の衝動を掛け合わせたような、ストレートな青春パンクっぽさが印象的だった。最後は、日本のロックのクラシックと言ってもいい『BABY BABY』でシンガロングを巻き起こし、『ぽあだむ』で締めた。
このステージのあとでクリープハイプに、いや、日本中の他のバンドにいったい何ができるのか、不安になるほどの迫力だった。
憧れのロックスターを超える時
しばらくして、小川幸慈(Gt.)、長谷川カオナシ(Gt.)、小泉拓(Dr.)が登場。3人がスタンバイすると、尾崎世界観(Vo.&Gt.)がゆっくり現れる。東京、名古屋に続きこの日もまずは尾崎のMCからスタート。
「憧れの銀杏BOYZとやれて本当に幸せです。『二十九、三十』もカバーしてもらって、すごく嬉しかったです。でも、その嬉しさよりも、今は恥ずかしいくらいに、負ける気がしません。憧れのロックスターを、超えます。何でもなかったクソみたいな奴が、憧れのロックスターを超える瞬間を見せます。」
こんなことを本人の前で言える人間がどれくらいいるだろう。前日は後輩であるKANA-BOONの前で余裕を見せていた尾崎が、この日は先輩である銀杏BOYZの前で牙を剥いていた。それだけ特別で重要なステージだったということだ。
尾崎世界観(Vo.&Gt.)
スタートは『HE IS MINE』。「名古屋そんなもんか?」「今日ファイナルなんだけど?」とオーディエンスをあおり、これまでの2公演と気合の入り方が違うことを感じさせる。
続く『愛の標識』と『寝癖』はやっぱり名古屋でも人気で、『ABCDC』では、イントロが始まった瞬間に東京や大阪と同じように悲鳴のような声があがった。
また、本ツアーでは『週刊誌』という曲が重要な役目を果たしていたが、銀杏BOYZのライブの後にこの曲のパフォーマンスを見ると、銀杏BOYZに対抗するためにはこの曲が持つ殺意のような鋭さが絶対に必要だったのではないかという気がする。そう考えると、本ツアーのセットリスト自体が、初めから銀杏BOYZに対抗するために組まれたものだったのではないかという気すらしてくる。
長谷川カオナシ(Gt.)
銀杏BOYZに対する憧れと悔しさを、尾崎は「すごい好きだけど、悔しくてライブが始まると帰りたくなる」と表現する。「10年以上前に、銀杏BOYZのライブを見に行った時、隣にいたかわいい女の子が銀杏BOYZのライブを見ながら我を忘れたように叫んでいて、こんなかわいい子がおかしくなっちゃうくらいすごいバンドなんだなと、悔しくなりました。ここからは、かわいい子が我を忘れるくらい、めちゃくちゃにします」と、シャウト混じりに『百八円の恋』、さらに『社会の窓と同じ構成』、『社会の窓』を演奏。前方のオーディエンスが盛り上がったのは当然だが、後ろの方で、何人かの女の子が両手をあげて飛び跳ねていて、尾崎の予告通りめちゃくちゃにされていた。二階席では「ヤベーな、スゲーな」という男の子の声や、「めっちゃかっこいい……」という女の子の漏れるような声、さらには「どの音も全部ちゃんと聞こえる」とか「全員めちゃくちゃうまい」というような玄人っぽい感想まで飛び交っていた。
小泉拓(Dr.)
名古屋のオーディエンスは、東京と大阪に比べると、楽しみ方が上品な気がした。たまたまこの日はバンド経験者のオーディエンスが多かったのだろうか? しっかりと音を聴き、しっかりと演奏を見て、「ノる」というよりは「見入る」人が多かった。尾崎の言葉を引用すれば、「夏フェスのステージ上で浴びる軽薄なアレ(尾崎世界観の新刊『苦汁100%』p17より)」のようなものがほとんどなかったように思う。これはこれで誠実なことだ。
とはいえ、『イト』は盛り上がった。この曲がしっかりと全国のファンに浸透していることを実感させられた。
小川幸慈(Gt.)
「次で最後の曲になります」と言うと、オーディエンスからは「えーーー!!」という反応が。
尾崎が「これからやる曲は、石田ゆり子さんのようにめちゃくちゃ良い年の取り方をしている曲」と言うと、これが大ウケで、会場からは大きな拍手が起こる。その中で『イノチミジカシコイセヨオトメ』を演奏し、さらに大きな拍手に包まれたところで、いったんステージを去った。
クリープハイプ with 峯田和伸
すぐさまアンコールの拍手が始まると、今度は尾崎を先頭にしてカオナシ、小川、小泉が再登場。
尾崎が「銀杏BOYZ、本当に大好きです。カバーまでしてもらって……。銀杏BOYZはライブで人の曲をやったことないんじゃないかな? でも、これでお返しに自分たちもカバーをやるっていうのは、寒いよね?」と言うと、場内からは「えー!」「やってよー!」という声が。「そんなお中元みたいな、予定調和みたいなのは、峯田さん嫌いだと思うんだよなあ。峯田さん、どうですか?」
するとその尾崎の声を遮るようにカオナシが「ワン、ツー、スリー、フォー!」と絶叫し、そのまま『援助交際』へ。
銀杏BOYZの代表曲であり、トリビュートアルバムでクリープハイプがカバーしたこの曲を、名古屋のオーディエンスはみんな待っていただろう。フロアはこの日一番の熱狂状態になった。さらに曲の中盤、袖から峯田が現れ、熱狂は渦を巻いて大きなうねりとなり、モッシュ&ダイブが起こった。峯田はスキップしながらドラムの後ろを楽しそうに通り抜け、マイクを手に取り、ノリノリで踊りながら歌い始める。
こうして、クリープハイプと峯田和伸の超レアな共演が実現した。
この画を見ると、つい、「夢の共演」という言葉を使いたくなってしまう。しかしこの言葉はあまりにも頻繁に使われすぎていて陳腐な気もする。ここで起きたことは、そんな陳腐なものではない。時代の象徴、青春の象徴と言って過言ではない峯田和伸と、その背中に憧れ追い続けてきた新しい時代の象徴であるクリープハイプ。両者の共演には歴史の重みがある。
しかもこれは仕組まれたものではなく、偶然実現した幸運だったのだ。尾崎によると、この日のために『援助交際』を「一応、練習はしてたけど、やるつもりはなかった」という。峯田と事前の打ち合わせもなかったらしい。ということは、この日の名古屋のオーディエンスが作り出した会場の空気が、彼らに共演を促したのだ。
クリープハイプと峯田和伸による『援助交際』は、この日Zepp NAGOYAに足を運んだ人々にとって、忘れることのできないかけがえのない時間になっただろう。やがて時間が経ち、それぞれが日常の生活に戻り、この時の熱狂が薄まったとしても、きっと事あるごとに思い出すだろう。そして人々は、「クリープハイプと峯田和伸の『援助交際』を見た」と自慢するかもしれない。ここ数年で音楽をめぐる環境が様変わりしてしまい、いまやほとんど聞かなくなってしまったあの言葉、しかしひと昔前には時々耳にしていた言葉、「俺は/私は、あの伝説のライブを見た」、この時代遅れのキラーフレーズが、筆者の腹の底から喉元までせりあがってきていた。この感覚、あの場にいた人なら共感してもらえると思う。
峯田がステージを去ると、尾崎は「まさか『援助交際』で峯田さんに援助してもらえるとは思いませんでした。ありがとうございます」と先輩への感謝と敬意を改めて示す。オーディエンスからは大きな拍手が起きた。
そして「もう1曲やらせてください」と、その場でメンバーやスタッフと打ち合わせる。本当にアンコールで何を演奏するか事前に決めていなかったらしい。
準備が終わると、尾崎は「悪いことをしてでも生き延びてください」と峯田のMCを引用。
引用という行為は、引用元への深い敬意を伴ってなされる行為である。それを名古屋のオーディエンスは理解していたのだろう、ここでも大きな拍手が起こる。「何か嫌なことがあっても、夏のせいにして生き延びてください」と『ラブホテル』を演奏。さっきの『援助交際』に負けないほどの盛り上がりを見せた。
大サビの前で、「本当に幸せな時間をありがとうございます。今日はこの歓声をオカズにして寝ます。だからもう少しだけこの歓声を聞かせてください。もう少しだけ聞かせてください」という尾崎の言葉に、大声援で応えるオーディエンス。この瞬間の歓声量が、さきほどの峯田との共演よりも少しだけ上回っただろうか。
大声援の中、最後は尾崎の投げキスまで飛び出し、熱狂のうちに『ストリップ歌小屋 2017』名古屋公演は幕を下ろした。
昨夜の名古屋公演で、ストリップ歌小屋 2017が無事終了しました。あっという間だったけど、とても濃い時間を過ごす事ができました。ありがとう!!
名古屋のアンコール、あの数分間は宝物です。
— 小川幸慈 (@yukig_ogw) 2017年6月16日
「ストリップ歌小屋 2017」@ Zepp Nagoyaでした、ありがとうございました! 銀杏BOYZ最高すぎて、乳首からビーム出た。
— 小泉 拓 (@koizumitakuda) 2017年6月15日
受け継がれたもの
さて、そろそろこの日のまとめに入ろう。この日のライブでは引用がひとつのポイントであったことから、筆者も引用元への深い敬意を持って、銀杏BOYZの『青春時代』という曲の歌詞を引用したい。
『青春時代』には、こんな歌詞がある。
あああ 僕はなにかやらかしてみたい
そんなひとときを 青春時代と呼ぶのだろう
(銀杏BOYZ『青春時代』)
青春とは、人生の限られた一時期のことではなく、心の状態のことだ。それは通過するものではなく、思春期に失われるものでもなく、自ら作り出すものだ。
だから、「なにかやらかしてみたい」と思い続けられる限り、青春は何度でも訪れる。
クリープハイプの4人は、10代の頃に芽生えた「なにかやらかしてみたい」という気持ちを抱き続けてきた4人だろう。自ら青春を作り出し、繰り返しその中で生き、今もなお青春時代を生きつつある4人だろう。そのことが、彼らのライブを見るとよくわかる。いや、わかるというよりも、否応なく感じさせられると言った方が良いか。
銀杏BOYZからクリープハイプへと受け継がれたものは数え切れないほどあるだろうが、その中でもっとも重要なものは、青春時代を生き続けるための精神のようなものではないだろうか。
だとしたら、音楽を聴いて感動しているわたしたちだって、たとえ音楽を生業としていなくとも、その精神を彼らから受け取ることはできる。受け取り、咀嚼し、それを自分なりに解釈して、それぞれの人生の糧にすることができる。生きていくことができる。
だから、あのライブを経験した人たち、そしてこの記事を読んでいる人たちに言いたいのは、次の一言に尽きる。尾崎がライブ中に引用した、峯田の言葉――。
生き延びよう。
どうしようもなく悲しいことは全部、夏のせいにすればいい。
「ストリップ歌小屋 2017」@ Zepp Nagoyaありがとうございました! 銀杏BOYZとの対バン、特別な日になりました! pic.twitter.com/lvhnsT3b4b
— クリープハイプ (@creephyp) 2017年6月15日
セットリスト(銀杏BOYZ)
1. 光
2. 若者たち
3. 骨
4. 夢で逢えたら
5. ナイトライダー
6. 二十九、三十(クリープハイプのカバー)
7. エンジェルベイビー
8. BABY BABY
9. ぽあだむ
セットリスト(クリープハイプ)
1. HE IS MINE
2. 愛の標識
3. 寝癖
4. ABCDC
5. 蜂蜜と風呂場
6. 週刊誌
7. グレーマンのせいにする
8. 5%
9. 鬼
10. 百八円の恋
11. 社会の窓と同じ構成
12. 社会の窓
13. イト
14. イノチミジカシコイセヨオトメ
En1. 援助交際(with 峯田和伸)
En2. ラブホテル
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