ロックバンド・クリープハイプがモバイル会員限定ライブツアー『「秘宝館」〜満開栗の花〜』を開催した。
本記事では、3/16(木)に東京・新木場STUDIO COASTで行われた東京公演の様子をレポートする。
Text_Sotaro Yamada
体調不良と仙台公演の延期
【公演延期のお知らせ】
ご来場予定の皆様にはすでにお知らせしておりましたが、本日開催予定だった“「秘宝館」〜満開栗の花〜”仙台darwin公演は、尾崎世界観の体調不良のため、延期させて頂く事になりました。詳しくはこちらをご覧ください。https://t.co/A8bh2TicsW— クリープハイプ (@creephyp) 2017年3月12日
東京公演数日前の3/12(日)には、仙台での公演が予定されていた。しかし、尾崎世界観の体調不良によりライブは5/11(木)に延期に。あわせて月曜深夜のラジオ番組も石崎ひゅーいに代打を任せるなど、ファンにとっては不安・心配の募る数日だった。
尾崎によれば、ライブを飛ばすのは、これが人生で初めてだそうだ。
十数年にわたる音楽生活の中では、ライブ当日に体調が悪い日なんて数え切れないくらいあっただろう。それでも尾崎は、一日たりとも休まずステージに立ち続けて来た。一日もだ。それほどまでにストイックな尾崎がライブを休まなければならないのだとしたら、その「体調不良」は、「重い」を通り越して、何か重大な、今後の彼の人生に影響を及ぼすようなものなのでは……?
尾崎がTwitterを辞めてから(アカウントは残っているが、三年間更新してない)、彼の言葉をリアルタイムで読んだり聞いたりできる機会はほとんどなくなった。だから、仙台公演の延期が発表されてからの四日間は、ファンにとって、一日ごとに不安が大きく募っていくような四日間だっただろう。
悪い想像が育つのは早い。ファン歴の長い人ほど不安だったのではないか。
SNSで検索すると、尾崎を心配する声が絶え間なく流れていた。その多くが「あれだけ忙しそうにしてたら当然ですよ!ゆっくり休んでください!」という類のものだったことは同じファンとして嬉しかったが、何より尾崎本人の声が、言葉が、聞きたかった。
そしてやって来た3/16。
午前中にクリープハイプ公式Twitterからアナウンスが入る。
【ライブ情報】
本日のライブは「秘宝館〜満開栗の花 〜」@ 新木場スタジオコーストです!予定通りの開催となりますのでよろしくお願いします!— クリープハイプ (@creephyp) 2017年3月16日
もちろん気持ちは湧いたが、どんなステージになるかよりも、尾崎の状態が気になった。
「ステージに立った以上は別」
繰り返すが、尾崎はこの数日前に、彼の人生において初めてライブを飛ばした。この日はその直後のライブ。そう考えるとこれは非常にレアなライブであり、仙台のファンには申し訳ないが、ある意味ではこの日の東京公演のチケットを取れたファンはかなりラッキーだったのかもしれない。
そんなレアなライブのステージに最初に現れたのは、尾崎でもなければ、クリープハイプでもなかった。
その名も「門出船出」(かどでふなで)。
ショートパンツにハイソックスという格好のお笑い(?)コンビ。
一人は茶色い長い髪がゆるくウェーブしていて、一人はハットとヒゲに特徴がある。なんだか見た目が、すごく、すごーくよく誰かに似ている。っていうか見たことあるぞこの二人。
「芸歴25年、僕らはライブ飛ばしたこと一度もないんですけど。クリープハイプのライブに呼ばれたのは今日が二回目ですね」
オーディエンスからは笑いと拍手が起きる。
こんなふうに、門出船出の漫談からライブはスタートした。時節柄、卒業や就職にちなんだ曲をアカペラで披露したり、門出船出のために尾崎が書き下ろしたというめでたい曲を披露したりと、和やかな雰囲気で進む。モバイル会員限定ライブならではの信頼関係を感じた。
門出船出が小走りで去ると、少しの間を置いて、赤い光の中から長谷川カオナシ(Ba.)、小川幸慈(Gt.)、小泉拓(Dr.)が登場。
最後に、尾崎世界観(Vo. & Gt.)がゆっくりと姿を表す。
全員が見守る中、かすれた声でまず一言。
「ご心配おかけしました」
するとオーディエンスから大きな歓声があがる。
その歓声は、尾崎がはっきりと言い放った次の言葉で、さらに大きくなった。
「ステージに立った以上は別なので。病人だと思ってナメんなよ!」
この一言が、この日のオーディエンスの心をどれだけ湧き立たせたか、想像することは難しくないだろう。たった一言で人々の感情をこれだけ揺らせるのだから、やっぱり尾崎はスターなのだと再確認する。
そして一発目に演奏したのは『HE IS MINE』。
(クリープハイプ『HE IS MINE』MV。クリープハイプとセックスできる曲)
いきなり「セックスしよう!!」の大合唱で、場内が異様なまでにハイになったことも、想像することは難しくないだろう。
続けて『社会の窓』をキメる。
(クリープハイプ『社会の窓』MV。何度見ても感情を揺さぶられる山田真歩の演技も素晴らしい)
もう、ファンにとってはこれ以上ないというようなコンボ。
ステージから離れた二階席で見ていた私は、自分の顔がMVの山田真歩になっているような気がして、ちょっと恥ずかしかった。
先ほど「ファンにとっては不安・心配の募る数日だった」「どんなステージになるかよりも、尾崎の状態が気になった」などと書いてしまったが、これまで何度となくリピートした『社会の窓』の有名なフレーズ「余計なお世話だよバーカ!」を聞いて、「もしかして私は尾崎をナメていたのではないか?」という気持ちになった。無意識のうちに、尾崎の覚悟をナメてしまっていたのだ。
確かに尾崎は、心から自分を心配してくれるファンの気持ちを大切にする人間だろう。
だが同時に、心配されるような自分であることを嫌う人間でもあるのではないか。
「ステージに立った以上は別」、まさにその通りで、この日の尾崎を見て、これが病み上がりの人間(もしくはまだ完治していなかったかも?)だと思う人は一人もいなかっただろう。むしろ多くの人が、今の彼を絶好調だと思っただろう。これこそがプロなのだ。
「ステージに立った以上は別なので。病人だと思ってナメんなよ!」
ライブ中、この言葉がずっと頭の中でループしていて、鳥肌が立った。
私は、尾崎の覚悟の強さを無意識のうちに低く見積もってしまっていた自分を恥じた。
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