12月6日・7日、舞浜アンフィシアターで秋田ひろむ(Vo./Gt.)が自身初となる単独弾き語りライブ『理論武装解除』を敢行した。amazarashi最初期のナンバー『光、再考』から、最新アルバム『地方都市のメメント・モリ』収録曲までを含む全15曲。さらには、音源化されていない新曲『夕立旅立ち』をも披露した。
Text_Hiroyuki Ozawa
スポットライトに照らされて、ゆったりと一語一語を噛みしめるように歌うかと思えば、激しくギターをかき鳴らし、あるいは心に染み入る高音を響かせる秋田ひろむ。一人で演奏する分、緩急も強弱も自由自在の、彼の文字通りの独壇場で、圧巻のパフォーマンスだった。これまで膨らませつづけてきたその才能を彼がビッグバンのごとく爆発させたのを、あの場にいたすべての人が目撃したに違いない。この日からすべてが新たに始まるだろう。
星は誕生した。
いままでは、ボーカル/ギターの秋田ひろむ、キーボードの豊川真奈美、それからギター・ベース・ドラムを担当するサポートメンバーの計5人編成でamazarashiのライブはおこなわれてきた。だが今回開催された『理論武装解除』では、秋田ひろむ一人が楽曲を演奏し、歌を披露した。
舞台前面に半透明のスクリーンが張られ、そこに映像が投影されるのは、普段のライブと変わらない。ただし、普段より映像も演出もかなり控えめで、むしろ秋田ひろむだけを暗闇から丸く切り取るスポットライトのほうが印象的だったかもしれない。
いつもより小さめのスペースのなか、椅子に腰かけ、ギターを肩からさげた秋田ひろむが『夏を待っていました』を歌いだす。幕は上がった。
異例ずくめのなか、うれしい驚きだったのは、MCの多さだ。
全体を通して短めのMCが一度あるだけなのがamazarashiのライブの通例なのだが、この日は違った。2曲ごとに秋田ひろむが話をしてくれたのだ。おもむろに、訥々(とつとつ)と。
リスナーとの一期一会、「わいと皆さんとのつながり」を感じて作ったという『ナモナキヒト」。豊川真奈美と二人で路上ライブをした思い出の甦る『隅田川』。この1年をふり返り、色んな出会いから色んな感情が生まれてできた歌だと話した『命にふさわしい』。かつてのバンド仲間たちとの別れ、しかしいまもサポートメンバーとして協力してくれるベースの“タケ”について語った、悲喜こもごもの『ライフイズビューティフル』。
10曲目の『フィロソフィー』に入る直前には、豊川真奈美が登場。キーボードのうえで水玉の跳ねるような美しい音色をきらめかせ、みずみずしく澄みきった声を秋田ひろむの歌声にときおり重ね合わせた。
そして、まだ音源化していないものの、「豊川が来てくれたから」二人で歌うのにふさわしい曲として初披露したのが、「ふるさとからの旅立ち」の歌だという『夕立旅立ち』だった。全体的にはゆったりとしたテンポながら、「夕立」と「旅立ち」で韻を踏むサビの部分は猛々しいほどで、前進への決然たる志と望郷とが交叉する、複雑な感情を見事に昇華した一曲だった。甘さと苦さ、熱さと冷たさ、希望と絶望――矛盾するもの同士が混然一体となって聴く者の心のひだにまで分け入ってくる、まことにamazarashiらしい歌だったと思う。配信を待ちたい。
豊川真奈美と『空に歌えば』を唱和した秋田ひろむは、いまや1曲ごとに語りはじめる。amazarashiの「始まりの歌」だという『光、再考』、「みんなに名曲にしてもらった」という『僕が死のうと思ったのは』、そして「最後の曲です」と紹介された新曲『悲しみ一つも残さないで』。
舞台が暗転しても、拍手は鳴りやまない。すると再びスポットライトが秋田ひろむを浮かびあがらせる。めくるめく体験をして様々な感情が湧きでてくるのを止められない自分は、そのとき彼が「また会いましょう」と呟いた一言を、夢みるように聞いていた……………………………………………………………………………
かつて「才能不在」と歌った秋田ひろむの天才は、この日、完全に開花した。いや、正確にいえば、すでに咲き誇っていたその才能を、この日ほど彼がまざまざと見せつけたことはなかった。
初期の傑作『夏を待っていました』のMVが文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門で優秀賞を獲得し、それがきっかけで注目を浴びはじめた経緯に象徴されるように、これまでamazarashiの活動は映像とのメディアミックスという観点から語られることが多かったと思う。実際、ライブでは大スクリーンに映像が投影され、映画さながらの体験をさせてくれた。3Dライブ(2015年・豊洲PIT)や360°ライブ(2016年・幕張メッセイベントホール)もそのような方向性の一つの帰結だったといえる。もちろん、それはamazarashiの大きな魅力の一つであって、音楽と映像とが互いに助け合う、車の両輪のような働きをしていたのは間違いない。
ところが今回、秋田ひろむは自分の声とギターだけを武器に、その実力を存分に発揮してみせた。他から力を借りることなく、太陽のようにみずから輝くことで、才能の充溢を証明したのだ。
来年4月から始まるライブツアー『地方都市のメメント・モリ』では、amazarashiはおそらく従来通りの編成に戻っていることだろう。しかし、そのパフォーマンスのクオリティは過去とは比較にならないほど上がっているはずだ。音楽と映像がかつてないほどの相乗効果を発揮し、その魔法のようなケミストリーから誕生する新生amazarashiを見られるのが、いまから楽しみでならない。
セットリスト
1. 夏を待っていました
2. ジュブナイル
3. ナモナキヒト
4. ラブソング
5. 隅田川
6. ヒーロー
7. 命にふさわしい
8. 空洞空洞
9. ライフイズビューティフル
10. フィロソフィー
11. 夕立旅立ち
12. 空に歌えば
13. 光、再考
14. 僕が死のうと思ったのは
15. 悲しみ一つも残さないで
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