KREVAが主催する『908 FESTIVAL 2017』が9月8日、東京・日本武道館にて開催された。2012年から開催されている『908 FES』もこれで通算6回目。毎回、ジャンルを越えた様々なゲストが出演し、夏の終わりの風物詩となりつつある。今年の『908 FES 2017』も豪華なゲストが出演し、最高レベルのパフォーマンスで武道館を沸かした。また、前日には同じ場所でKICK THE CAN CREWの復活祭が行われており、KREVAにとっては2日連続の武道館公演となった。
Text_Sotaro Yamada
KREVAとは?908 FESとは?
KREVA(クレバ)とは、日本を代表するラッパー。日本のヒップホップにおける伝説的なイベント『B-BOY PARK』のMCバトルで3年連続日本一に輝く実績を持つ。1997年にKICK THE CAN CREWを結成し、2002年にNHK紅白歌合戦出場。2004年の活動休止後はソロ活動に専念し、『イッサイガッサイ』、『王者の休日』など数々のヒットシングルをリリース。その活動には常に「ヒップホップ・ソロアーティスト初の」という言葉がつくほどで、日本の音楽シーンに多大な影響を与えた。
『908 FES』とは、そんなKREVAが主催する年に一度の音楽フェス。2012年にさいたまスーパーアリーナで第1回目が開催され、第2回目以降は大阪と関東(さいたまスーパーアリーナもしくは日本武道館)での2回開催となった。毎年クレバの日(9月8日)を目処に開催され、ジャンルや世代を越えたアーティストが集まり、意外なゲストも登場する。
『908 FESTIVAL 2017』出演者一覧
今年の『908 FES』の出演者たちは以下の5名(五十音順)。
AKLOは第一回目から毎回出演、久保田利伸は3年ぶり2回目の出演、三浦大知は5回目、MIYAVIは4回目の出演。そして、シークレットゲストとしてJAYE’Dも出演。なお、大阪城ホールで行われた『908 FESTIVAL in OSAKA』にはAKLO、JAY’ED、三浦大知、MIYAVIのほかに葉加瀬太郎も出演している。
オープニング:三浦大知と全速力で武道館を駆け回る
大人気のフェスということもあり、会場は超満員。日本武道館は隅から隅まで埋まり、異様な熱気に満ちていた。
オープニング、赤いジャケットをはおったKREVAは三浦大知とともに登場。
KREVAにとって三浦大知は、これまで互いの作品やライブで何度もコラボしてきた仲であり、近年はほとんど「相棒」という言葉が似合うほどの存在。当然、『908 FES』の常連でもあり、自身に次いで重要なパートを任せる相手でもある。
そんな三浦大知とまずは『全速力 feat. 三浦大知』で共演。『908 FES 2017』の開幕を宣言すると、舞台を飛び降りて客席を駆け抜け、上段までぎっしり埋まった武道館を一発目から沸かせた。
MIYAVI:武道館をイビサに変える祝祭的ステージ
二人が去ると、次に現れたのはMIYAVI。
ステージに火柱が吹き上がる中、得意のスラップ奏法で代表曲『What’s My Name? Day 2 mix』を演奏し盛り上げる。ドラムには相方のBOBO、DJには東京を代表する「it girl」であるALISA。華麗さとマッチョさと可愛らしさを融合させたステージに。
KREVAを呼び込み、ノースリーブのストライプシャツに着替えたKREVAと『STRONG (MIYAVI vs KREVA)』を演奏。ステージから客席へ向けて突き刺すような紫と緑のレーザーが放たれる。この曲のタイトルには「feat.」ではなく「vs」という言葉が冠されているが、2人はその言葉にふさわしく、一歩も譲らない掛け合いを見せる。MIYAVIも相当気合が入っているが、KREVAも声を枯らして叫ぶ。それでいて2人が共演する時によくやるイチャつき合い(?)も見せ(KREVAがMIYAVIのギターを叩くような素ぶりを見せること)、良きライバルであり良き友でもあることを伺わせる。
KREVAがいったんステージを去ると、次は三浦大知がステージへ。深くお辞儀しながら登場する三浦大知に「かわいいー」とフロアから声が飛ぶ中、完成したばかりの新曲『Dancing With My Fingers(feat. 三浦大知)』を演奏。
この曲は、MIYAVIのデビュー15周年を記念した対バンライブツアーファイナルの東京・新木場STUDIO COAST公演(6月29日)にて「未完成ver.」として初披露した曲。ついに完成ver.が披露されたわけだが、やはりEDMを基調としたサウンドにMIYAVIの高音ギターが絡みつく最高のダンスミュージックに仕上がっていた。オーディエンスもクラップ&ジャンプしながら大盛り上がりになれる曲で、MIYAVIの新たな代表曲になるだろう。
MIYAVIによる高音の超絶ギターと、三浦大知による超絶技巧ダンス、そしてBOBOとALISAが鳴らす重厚かつ多幸感溢れる音に、「ここはイビサ?」と錯覚してしまうような、祝祭的なステージだった。
久保田利伸:「兄貴」はブルージーに大人っぽく
続いて登場したのはKREVAが「兄貴」と慕う久保田利伸。日本にブラックミュージックを浸透させたパイオニアの一人であり、昨年デビュー30周年を迎えた大ベテラン。
久保田利伸は、KREVAとともに『M☆A☆G☆I☆C 久保田利伸 meets KREVA』をブルージーに歌い、武道館の雰囲気を一変させる。MIYAVIのステージがイビサを思わせる祝祭的なものだとしたら、久保田利伸のステージはニューヨーク・シティの高級クラブ。ラグジュアリーな大人の空間を演出し、多くのオーディエンスをうっとりさせた。
ところで、KREVAはこの日、共演する相手ごとに毎回衣装を変えており、久保田利伸とのステージで着ていたベルベット素材のカーディガンは色気を醸し出していた。
また、久保田利伸はKREVAのリクエストによりアイズレー・ブラザーズの『Between The Sheets』をカバー。80年代にリリースされたこの曲は、その後数々のアーティストにカバーされたりサンプリングされているR&Bのスタンダード曲。この曲を久保田利伸らしく思いっきりメロウに歌い、さらにKREVAが自身の曲をいくつもサンプリングしたラップを被せるという、贅沢な一幕を見せた。
AKLO&JAY’ED:日本のラップミュージックを更新する2人
次に登場したのは『908 FES』では第1回より皆勤中のAKLO。
近年、ヒップホップは世界中でかつてないほど盛り上がりを見せているが、ここ日本で最も本格的かつ最先端のラップミュージックを表現しているのがAKLOだ。
まずは代表曲『McLaren』でそのドープな世界にオーディエンスを引きずり込むと、KREVAを呼び込み『Catch Me If You Can feat. KREVA』へ。KREVAの衣装はフレンチスリーブのパーカーにスニーカーと、AKLOに合わせてモード感あるストリートスタイルに変身。
いったんKREVAがoutすると、シンガーのJAY’EDがin、二人で9月6日に発売されたミニアルバム『sorry…come back later』収録の『Different Man feat. JAY’ED』を歌う。
ヒップホップとR&Bは親和性が高く、たとえばアメリカではR&Bの楽曲の多くをヒップホップ系のプロデューサーが作っていたり、Drake以降のラップミュージックは歌とラップがナチュラルに混ざり合うことが普通になってきているが、その最新のスタイルのひとつがここにある。AKLOはメキシコ、JAY’EDはニュージーランドにルーツがあるため余計にそう感じられるのかもしれないが、海外のシーンの動きを敏感に捉えているこの2人の楽曲は、トレンドをうまく取り込み、咀嚼し、日本のラップミュージックを更新し続けているように感じた。
『想い出の向こう側 feat.AKLO』ではKREVAのパートをJAY’EDが歌うと、2回目のサビでKREVAが再登場。
3人で歌う様は、もしアメリカのシーンに例えるならばKendrick Lamar(AKLO)とThe Weeknd(JAY’ED)とDr. Dre(KREVA)がコラボしているような、「年代別ボスキャラ集合感」のような雰囲気があった。そしてAKLOとJAY’EDがoutし、曲の最後の部分はKREVAが1人で締めた。
ちなみにこの時、KREVAの衣装が上下黒のスーツに黒いタートルネックに変わっていたが、この紳士的な衣装チェンジは次に共演するゲストのためにあった。
絢香:この消えない歌声
先ほどから「in」とか「out」とか、まるでスポーツ選手が試合中にメンバーチェンジするような書き方をしているが、この日のステージはまさに、トップ選手が入れ替わり立ち替わりプレーするオールスターゲームのようなものだ。
黒スーツ姿のKREVAが『くればいいのに』を歌い出すと、2回目のサビ前に、赤いドレスに身を包んだ絢香が登場。KREVAにエスコートされステージ中央に並ぶと、赤と黒が美しいコントラストをなし、絢香の赤いドレスが非常に際立つ。KREVAのジェントルマンシップを感じる。そしてサビを歌う絢香の歌声にオーディエンスは総鳥肌状態。KREVAが「ハンパない歌声。マジで歌うまいね!」と絶賛する絢香の歌は、やはり確実に日本のアーティストの中でトップレベルにある。
今年でデビュー11年目。もっともっと絢香の歌声を聴きたいと思わせられるが、どうやら今後の活動がさらに活発になる気配があった。
まずはこの日、『908 FES』でKREVAと歌うためだけに用意してきた新曲を披露。タイトルは『Glory feat. KREVA』といい、現時点では音源化の予定などまだ未定だが、最終的にKREVAと2人で仕上げたコラボ曲なのだという。これが、絢香とKREVAどちらのファンも大満足させる壮大な楽曲……。
あまりの素晴らしさに、歌い終わると大きな拍手が巻き起こり、しばらくの間鳴り止まなかった。
そしてKREVAが「この歌声をもっとじっくり聴いてもらいたいから」とオーディエンスを座らせるといったんout。
ステージ上方の巨大スクリーンに三日月が現れ、『三日月』のイントロが流れ出すと、ここでこらえきれず涙を流すオーディエンスが続出。
2006年にチャートで1位を記録し大ヒットしたこの曲は、カラオケチャートでも1位を記録し、現在に至るまであらゆる層の女性たちから圧倒的な支持を得て歌い継がれている。「まさかこれが聴けるとは……」といった反応が散見され、絢香の存在感が武道館を圧倒していた。
絢香の『三日月』に、全身の毛が逆立つような感覚を多くの人が抱いたのではないだろうか……。
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