新海誠監督の過去作から、『天気の子』の傾向を予想できるか
『君の名は。』(2016年)で歴史的大ヒットを飛ばした新海誠監督の最新作『天気の子』が、2019年7月19日に全国公開される。寝ても覚めても期待の高まってゆく本作への期待をさらに高めるために、新海誠監督のこれまでの歩みをふり返り、過去作のデータから、最新作の傾向を予想してみよう。
新海誠監督の作品には、ある周期法則がある
商業デビューを飾った『ほしのこえ』(2002年)以降の新海誠監督の歴代アニメーション映画を順番に並べてみると、そこにはある決まった周期法則のあることが見て取れる。
『雲のむこう、約束の場所』(2004年)91分
『秒速5センチメートル』(2007年)63分
『星を追う子ども』(2011年)116分
『言の葉の庭』(2013年)46分
『君の名は。』(2016年)107分
歴代映画のパンフレット(筆者所有)
上映時間に注目してみてほしい。長い→短い→長い→短い→長いというふうに、長短が交互にくり返されていることが分かるだろう。
各映画の舞台にも目を向けてみよう。『雲のむこう、約束の場所』は南北に分断された日本、『秒速5センチメートル』は小さな日常、『星を追う子ども』は地下世界、『言の葉の庭』は小さな日常、『君の名は。』は彗星の迫る日本がそれぞれ舞台になっている。
つまり、尺の長さと比例して、描かれる世界の規模も大小を交互にくり返しているのだ。セカイ系と日常系をくり返していると言ってもいいだろう。
このようなサイクルが存在していることを、実は新海誠監督も自覚している。彼は『アニメージュ』のインタビューで次のように述べていた。
『雲のむこう』のあとに『秒速』をつくったように、『星を追う子ども』のあとに手の届くところで完成度を高めようと思って『言の葉の庭』をつくったので、僕の中ではこの次の作品は、またもう少し遠くに手を伸ばすサイクルになるんです。今までの集大成的な意味合いもあることはあるんですけど、ただ短め、長め、短め、長めみたいな順番で言うと、単純に長めの作品の予定です。
こういうサイクルの中で、手が届かないかもしれない部分に手を伸ばそうとしていった時期の作品というのは、振り返ると、少しつらいんですよね。『言の葉の庭』は全くつらくないんですけど、『星を追う子ども』はちょっとつらいです。
(『アニメージュ』2015年7月号)
(画像出典:Amazon)
インタビューの中で「この次の作品」と言われている『君の名は。』が長めの作品かつ大きな世界を描いた作品でもあることは、皆さんご存知の通りだ。『君の名は。』までの劇場アニメーション映画においては、「長短の法則」と「大小の法則」という二つの周期法則が維持されてきたのである。
では、『君の名は。』の次回作、『天気の子』ではどうだろうか。
『天気の子』はこの周期法則に当てはまるか?
結論からいうと、当てはまらない。新海誠監督のフィルモグラフィの中で、『天気の子』は例外的な作品になる可能性が高い。「長短の法則」と「大小の法則」について、一つ一つ確認してゆこう。
まず「長短の法則」。従来のサイクルが続くとすれば、次回作『天気の子』は短めの作品ということになってしまう。しかし、これは事実と異なる。次も長編アニメーション映画となることが決まっているからだ。長短の法則は崩れた。
そして「大小の法則」。これも崩れているかもしれない。『天気の子』には、「空を晴れに出来る力」をもった少女が登場するという。もちろん、この情報だけで映画の全体像を掴むことは無理だが、『雲のむこう、約束の場所』や『君の名は。』系列の大きな物語を予感させる。そのことを過去の情報からも裏付けるために、もう一度、新海誠監督のインタビューを読んでみよう。
『雲のむこう』で自分自身の限界みたいなものを思い知ったので、『秒速5センチメートル』では、ある意味あまり無理をせずに、自分がこれならばいけると本当に確信を持てるものでつくることにしたんです。
(『アニメージュ』2015年7月号)
『雲のむこう、約束の場所』において新海誠監督はあえて「自分自身の限界」に挑み、自分にとって未知の世界を描こうとした。最初に引用したインタビューの表現を借りれば、「手が届かないかもしれない部分に手を伸ばそう」としたわけだ。
(画像出典:Amazon)
ところが、新海誠監督にとっては、そういう作品は必ずしも「完成度」が高くないと感じられるようだ。そのため、次の作品では自分の「手の届くところで完成度を高めよう」として、「ある意味あまり無理をせずに、自分がこれならばいけると本当に確信を持てるもので」、小規模な世界を舞台にした短めの作品を制作してきたのである。
要するに、「長短の法則」も「大小の法則」も、「完成度の高低」(あくまで新海誠監督にとっての完成度)を意識した新海誠監督の完璧主義から生じていることになる。以下は推測でしかないが、新海誠監督にとっては思いどおりにいかなかった部分を自分なりに消化するために、短めの作品を思いどおりにつくる工程が必要だったのではないだろうか。
さあ、ポイントはここだ。『君の名は。』は極めて完成度の高い長編だった。音楽にRADWIMPS、作画監督に安藤雅司、キャラクターデザインに田中将賀ら錚々たるスタッフを迎え、技術的に過去最高の出来となった。内容についても、新海誠監督自らが映画制作後のインタビューで手応えのあったことを明かしている。
幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。そんな映画にしたいというのは過去作でも思ってきたことなんですが、今回やっとそれが自分でも納得のいくカタチで作れたような気がしています。
(『新海誠監督作品 君の名は。公式ビジュアルガイド』)
(画像出典:Amazon)
『君の名は。』は新海誠監督にとっても「納得のいく」映画になったのだ。そうすると、これまでの長編映画のときのように、次回作は「手の届くところで完成度を高めよう」とは、もう思わないのではないだろうか。
もしそうだとすれば、『天気の子』は新海誠監督が再び「手が届かないかもしれない部分に手を伸ばそう」とした、『君の名は。』から更にもう一歩踏み出した、チャレンジングな作品になっている可能性がある。
もちろん、これはあくまで過去作にまつわる情報に基づいた予測なので、間違っているかもしれない。『天気の子』が『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』と同じタイプの、小さな日常に寄り添うものになっている可能性は、(映画を観ていないぼくたちに)依然残されている。いや、これまでのどの作品とも違う、データにはない、まったく新しい作品を目撃することになるかもしれない。
いずれにせよ、過去を知ることで、未来への想像がふくらむ。
『天気の子』公開まであと半年、期待に期待を重ねて待ちたい。
関連情報
・新海誠Twitter
・新海誠監督最新作発表記念!&トリウッド20周年記念! 『ほしのこえ』上映
日時: 2019年2月2日
場所: 下北沢トリウッド
・新海誠展――「ほしのこえ」から「君の名は。」まで――
日時: 2018年12月18~2019年2月3日
会場: 沖縄県立博物館・美術館 企画ギャラリー1・2
日時:2019年2月16日(土)~3月3日(日)
場所:ジェイアール名古屋タカシマヤ 10階特設会場
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