音楽と社会的なテーマの距離感はどうあるべきか
――『Silly Game』は、音楽と社会的・政治的なテーマの適切な距離感とはどのようなものか考えさせられる曲でもあると思います。両者は近すぎてもいけないし、遠すぎるのも考えものだと思いますが……。
SKY-HI：それについては、俺自身はどれだけ近くても遠くても良いと思ってます。人の生活って、何をやっても社会や政治と関わってるわけでしょ？ こうして人と話すことだって社会活動だし。そもそも、社会に全く目が向かないことの方が不自然じゃないかな。良い悪いは別として、プライベートでは社会問題について話すでしょう？ それなのに音楽にするときだけ話題に出さないというのは「何の漂白剤が効いてるんだよ」と感じて、気持ち悪い。
とはいえもちろん、常にそういう話ばかりをするわけでもない。打ち上げなんかで盛り上がって「イエーイ！」としか言わない時もありますから（笑）。そうだ、打ち上げといえば、俺のツアーの打ち上げは全世界に自慢したいくらいなんだけど……（スマートフォンに保存された打ち上げの写真を見せる）。
――おお……これは……、完全に打ち上がりきってますね（笑）
SKY-HI：打ち上がりきって、もはや行き過ぎてるでしょ（笑）。まあこういう時もあるわけだから、全ての曲が政治的なものであるというのも気持ちが悪いですよね。例えば、男女性というものはずっと自分の人生に関わってくるから「チャートにラブソングが多い」というのは必然だと思うんです。若ければ若いほど異性が全てであったりもするし。
たぶん、いま中学生くらいで凄く好きな彼女がいる男の子だったら、「日本がアメリカの属州になること」と「彼女と別れること」どちらか選べと言われたら、属州になることを選ぶんじゃないかな？ 別にそれって悪いことでは無いわけですよね。きっと彼にとっては彼女の存在こそがリアルで、属州になることよりもその子と付き合い続けることの方が大事なんだから。社会や政治の話が出るのは自然だけれど、一方で「政治の話をしなくちゃ」と思ってすることも、「イエーイ！」みたいなノリを馬鹿にすることも、どちらもダサいと思う。
音楽は社会に働きかける力を失ったのか？
――さきほどドナルド・トランプの名前が出てきましたが、大統領選の最中、ラッパーのエミネムが、トランプと彼の支援者を痛烈に批判する楽曲を発表しましたよね。
SKY-HI：あれは痛快だったなあ！
ドナルド・トランプを痛烈に批判した曲『Campaign Speech』
――エミネム以外にも多くのミュージシャンがトランプに批判的な立場を表明していました。でもトランプは大統領に選ばれた。音楽はいまでも社会に働きかける力を持っていると思いますか？
SKY-HI：俺はアメリカ国民ではないから、もしかしたらふわっとした答えになるかもしれないけど……。でもケンドリック・ラマーが「ドナルド・トランプが当選する選挙システムにそもそも問題がある」と言っていて、これには「ああ、なるほどね」と素直に感じました。なにが本当の民意なのかというのは、俺にはわからないです。
ただあえて言うなら、ラッパーの仕事というのは必ずしも扇動することじゃない。それも役割の一つかもしれないけど、ラッパーの仕事っていうのは、「ちゃんと見る」ことなんじゃないかな。例えばドナルド・トランプが選挙戦で優勢になった時に「これは間違っている。何故なら～」と見通す目を持っていること。それができる人物がラッパーだと思う。ドナルド・トランプが大統領になったから音楽は社会に働きかける力を失ったのかというと、決してそうではなくて。彼が大統領になったいまだからこそ、「これはこうあるべきだ」という課題を指摘できる人や、三歩先の未来が見えている人をこそ、ラッパーと呼ぶはず。
ケンドリック・ラマーはゴスペル
SKY-HI：そういう意味では、やっぱりケンドリック・ラマーは感銘を受ける存在ですよね。
本当にアメリカ国民の二歩先を示しているんじゃないかと感じさせられます。ゴスペルって、“God Spell（神の呪文）”と書くでしょう？ ケンドリック・ラマーはゴスペルなんじゃないかと思いますよね。神様が彼に「世の中に伝えなさい」とメッセージを啓示しているんじゃないかとさえ思うぐらい。学校で学びそうな倫理や道徳から、現代社会、政治の問題に至るまで伝えていく様は、まさしくラッパー。2PACまでのラッパーが「現代」の話をする人で、2PAC以降のラッパーは「未来」の話が出来ないといけない。そういう話が出来る人こそが優れたラッパーだと思います。
書くことがありすぎる時代
――『Silly Game』に話を戻すと、歌詞の中で「非常識な不条理を愛せ」というフレーズが印象的でした。
SKY-HI：世の中から見たら非常識や不条理なことであっても、それが苦しみや辛い状況から抜け出す手段に成り得るなら、愛すべきだと思うんです。だから「非常識な不条理」は、憤りつつも愛する対象であって、色々な意味合いがあるテーマなんだけど……。
あえて一つだけ俺に言えることがあるとしたら、「絶対的な正義は無い」ってことかな。それがどんなに道理に適っていないものであっても、その人なりの正義がある。ドナルド・トランプにも彼の支援者にも、その人の正義がある。
日本人にも「それって、超レイシズムじゃない？」と言いたくなるくらい、特定の国に無条件にマイナスのイメージを持っている人は居ますよね。ただそれでもなお、その人の正義がある以上は、「絶対的な否定」というのは基本的にはしたくない。
――アルバム『Olive』発売からツアーを経て、すぐに新曲をリリースするというのは驚異的な制作ペースですよね。ハイペースな活動が続いているので、次のアルバムの早い時期でのリリースにも期待してしまいます。
SKY-HI：次のアルバムの完成図も、もうぼんやりとは見えていて。というのも、書くことが多すぎて（笑）。これだけ突っ込みどころの多い世の中に生まれたら、書くことなんて無数にある。逆にいまの時代に生きていて、音楽活動を通じてメッセージを1ミリも発することが無い人がいたら、皮肉じゃなく神経を疑います。何を感じて生きているんだろうと思う。超アーティストでテレビも見なければネットにも繋いでなくて、スタジオと家の往復だけで生活していて戦争のことも一切知らない、という人なら話は別だけど。
でも普通に生きていて、普通に音楽をやっていて、1パーセントもメッセージが出ないとしたら、それは嘘でしか無いでしょう？ いまの時代、嘘はバレますよね。俺は、そういうフェーズに現代社会は入っていると思う。音楽をしている人間にとっては、いまは書くことがありすぎて終わらない時期なんじゃないかな。
■リリース情報
Silly Game
[CD+DVD] Silly Game
2017.05.31
AVCD-93680/B ¥1,944(税込)
Disc-1[CD]
01 Silly Game
02 Walking on Water Remix (feat. Lick-G & RAU DEF)
03 ナナイロホリデー (TJO Remix)
04 Silly Game (Instrumental)
05 Silly Game (Acapella)
Disc-2[DVD]
・ Silly Game (Music Video)
・ Silly Game (楽曲制作ドキュメンタリー映像)
[CD+DVD] Silly Game
2017.05.31
AVCD-93681/B ¥1,944(税込)
Disc-1[CD]
01 Silly Game
02 Walking on Water Remix (feat. Lick-G & RAU DEF)
03 ナナイロホリデー (TJO Remix)
04 Silly Game (Instrumental)
05 Silly Game (Acapella)
Disc-2[DVD]
SKY-HI HALL TOUR 2017 ~WELIVE~ ドキュメンタリー映像
SKY-HI HALL TOUR 2017 ~WELIVE~ 最新ツアーでのリハーサル映像やオフショットをまとめたドキュメンタリー映像を収録！
[CDシングル] Silly Game
2017.05.31
AVCD-93682 ¥1,080(税込)
Disc-1[CD]
01 Silly Game
02 Walking on Water Remix (feat. Lick-G & RAU DEF)
03 ナナイロホリデー (TJO Remix)
04 Silly Game (Instrumental)
05 Silly Game (Acapella)
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