永原真夏が5月30日、東京・渋谷WWWにて、『まなっちゃんのGREAT HUNGRY TOUR 2018』ファイナル公演を開催した。本ツアーは、3月7日にリリースした永原真夏ソロとしての初アルバム『GREAT HUNGRY』をともなったツアーで、3月21日の京都公演を皮切りに、2ヶ月かけて全国7都市を巡ってきた。本記事では、その集大成となる最終公演の模様をレポートします。
Photography_馬込将充
Text_Sotaro Yamada
祝祭に近い永原真夏のライブ
オープニングSEが流れるなか、まずは工藤歩里(Key.)、藤原亮(Gt.)、Bambi(Ba.)、石塚健丸(Dr.)というSUPER GOOD BANDのメンバーがゆるりと現れ、音を鳴らし始める。やや遅れて、otonaciumの白いドレスに身を包みマイクに白いリボンを結んだ永原真夏が登場。
「よろしくー! 永原真夏+SUPER GOOD BANDです!」
永原真夏の声には不思議な力がある。それを単純に生命力と呼んで良いのかわからないが、身体の内側から声を通して放射されるエネルギーの総量が普通の人とはケタ違いで、その声を聴くと何かが触発されるような気がする。だから、彼女が登場して第一声を発した時、フロアの空気は一瞬にして永原モードに変わった。それは祝祭の雰囲気に近い。
コール&レスポンスやシンガロングなど、音楽ライブには様々なお決まりのやり取りがある。永原真夏のライブにおいてもそうしたやり取りはもちろん見受けられるのだが、彼女のライブが他のアーティストたちと少しだけ違うのは、微妙な言い方になるが、永原真夏がオーディエンスをリードするというよりも、永原真夏がオーディエンスを自分の領域・ゾーンのような場所に誘い込む、ということだ。そのゾーンのなかで、人々は、それぞれが持つ「バイオロジー」のポテンシャルを引き上げられる。そのため、無理をして大声をあげる・慣れないモッシュに巻き込まれるというようなことはなく、あくまで自分にとってもっとも自然なリズムと声が内側から引き出されて、ナチュラルに陶酔していく。そうして気付いた時には全体として祝祭のような雰囲気ができあがっている。
ライブは『僕の怒り 君の光』からスタートした。永原はドレスの裾をたくしあげ、激しくステップを踏み、前のめりになって、いきなりフィナーレのような熱量で歌う。祝祭のはじまりだ。永原とフロアとあいだにほとんど距離はない。最前列のオーディエンスならば手を伸ばさなくとも鼻先が触れ合ってしまいそうなほどの至近距離で、永原は、いまにも客席に飛び込まんとする勢いで汗を飛ばしながら熱唱する。
「渋谷! あそんでかえろうぜー!」
『HAPPY GO LUCKY』『Fire』とライブは続いていく。後方のオーディエンスも身体を揺らし、手をあげ、歓声をあげている。「みんな機嫌が良いみたいだね!」という永原の言葉には、「そりゃそうだ! ライブが最高だからね!」と返す声が聞こえた、ような気がした。
永原とは高校時代からの友だちである工藤歩里はあうんの呼吸で美しいコーラスとピアノを響かせ、終始笑顔で永原を見守りながら演奏するBambiのベースはその柔らかい笑顔からは想像できないほど重くて速い。石塚健丸も穏やかなルックスとは正反対と言えそうな「渋谷でいちばん大きい音(永原)」を叩き出していた。そしてなんと言っても藤原亮の派手なギタープレイは、永原の熱量を超えそうなほどの激しさだった。
『バイオロジー』でメンバー全員が息の合った演奏を見せると、「しゃべる時間も惜しい(永原)」とすぐに『原チャリで荒野を行くのだ』『うさぎ春日』へ続き、熱量が飽和する寸前で『ホームレス銀河』へとつなぐ。『ホームレス銀河』には音を消して永原が独唱する部分などもあり、それまでとは雰囲気が一変。息をのむ音が聞こえてきそうなほどの静けさのなか、オーディエンスは永原のパフォーマンスに見入った。もともとは工藤とのピアノユニット“音沙汰”としてリリースした曲だったが、永原真夏+SUPER GOOD BANDになってからも再録され(1st EP『青い空』)、ライブでもたびたび演奏さる代表曲になった。深いさみしさと愛を感じさせる曲で、ノレる曲が多いライブの中盤を引き締め、強いアクセントになっていた。
ゲストを加えた超SUPER GOOD BAND
『青い空』でもう一度スイッチを入れると、いよいよゲストの登場。事前に告知されていた通り、元センチメンタルバスの鈴木秋則(Syn.)、ドン・マルティネスの村上大輔(Sax.)、SuiseiNoboAzの高野京介(Gt.)の3人が加わった。
合計7名の超SUPER GOOD BANDを従えた永原のギアは明らかに一段階あがり、『平和』『リトルタイガー』などを熱くパフォーマンス。鈴木秋則は銀のリボンを結んだシンセサイザーで怪しい音階を奏で、村上大輔はファンキーなサックスでグルーヴを与え、高野京介は激しすぎるギターでロック濃度を高めた。バンドからはアヴァンギャルドなウィーアーザワールド感が放たれているようだった。特に、アルバム『GREAT HUNGRY』の白眉である『あそんでいきよう』では、高野京介のフライングVが火を吹いたせいか、音源よりも激しくノイジーな演奏になり、本公演のハイライトのひとつになった。
(永原真夏『あそんでいきよう』MV)
その後、ゲストメンバーはいったん退き、アコギとボーカルのみで『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』をしっとりと披露。派手なバンド演奏直後のシンプルな演奏は、率直に言って心に染みる。本編ラストは『フォルテシモ』で締めた。
(永原真夏『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』MV)
(永原真夏『フォルテシモ』LIVE at 渋谷WWW 2018.05.30)
「音楽は素晴らしいなあ」
アンコールでは、まず永原ひとりが再登場。7月に、自主イベント『HOME GIRL』が開催されることが発表された。『ホームガール』とは「親友」という意味。かねてより永原は「自分の部屋にお招きするようなライブが理想」と語っており、より理想に近い状態でのパフォーマンスが見られそうだ。オーディエンスにとってみれば、演者と観客という関係性よりも、まなっちゃんの家に友だちとして遊びに行くような感覚だろうか。
その後、SUPER GOOD BANDを呼び込むと、「ソロを始めてから今まで3年間、永原真夏という名前のプロジェクトに、わたしも彼ら(SUPER GOOD BAND)と一緒に参加している気持ち」と情感たっぷりに『SUPER GOOD』を演奏。感極まって涙ぐむ場面もあった。
「歌っているとこみあげてくるものがありますね。それに触れると、音楽は素晴らしいなあと……。ずっと信じて、これからも信じていきたいなと思います。いつも泣いてばっかりでいてごめんなさい」
永原がこのように語っているあいだ、おそらく多くのオーディエンスの心のなかには、『HAPPY GO LUCKY』の歌詞が浮かんでいたことだろう――「ちゃんと毎日泣いてるかい」。
美しい涙をたたえたまま、締めは『オーロラの国』。ラストは永原とオーディエンスみんなで「生きていける」と合唱して終わった。
……はずだったが、オーディエンスからの拍手が鳴り止まず、急遽、ダブルアンコールを行うことに。
「せっかくだからゲストも呼んじゃう?」という永原の提案により、鈴木秋則、村上大輔、高野京介も再登場。SUPER GOOD BANDをふくめた全8人で「一度も合わせたことがないし、コードなども教えていない」という『ロックンロール』をぶっつけ本番で演奏。永原も驚く村上大輔の見事な即興演奏などが飛び出し、贅沢な1曲で『まなっちゃんのGREAT HUNGRY TOUR 2018』は閉じられた。
偉大なる渇望のもと、あそんでいきよう
さて、あらためて本ツアーを振り返ると、そもそもこのツアーはアルバム『GREAT HUNGRY』のツアーだった。永原真夏ソロとしては初のフルアルバムである。それだけに、このアルバムには永原真夏というアーティストの本質が詰まっていると考えて差し支えないだろう。
『GREAT HUNGRY』というタイトルについて、プレスリリース時に、永原は「なにかにつけて大食漢だからです」とコメントしている。このコメントには、ストレートな意味での「食」も当然含まれているだろうが(永原の食へのこだわりは、いくつかのインタビューや『あそんでいきよう』MVなどに顕著に表れている)、「なにかにつけて」という言葉を頼りにすれば、もう少し解釈を広げることもできそうだ。たとえば、「HUNGRY」を「空腹」ではなく「渇望」と訳してもいい。
何に対する渇望なのか?
シンプルに言えば、「生きること」に対する渇望だろう。『あそんでいきよう』には、次のような歌詞がある。
ごはんより美味いもの
寝るより気持ちの良いこと
(永原真夏『あそんでいきよう』より)
ごはんよりも美味く、寝るより気持ちの良いこと。以前こちらの記事に書いたことと重複するが、永原は、生理的な充足と、それを超えた精神的充足について歌っているのではないか。それはある種の理想郷であり、自分にとっての理想郷を獲得するための行為のことを「あそぶ」という言葉で表しているのではないか。
振り返ってみれば、永原の歌詞に「あそぶ」という言葉は頻出している。
さすらいましょう 遊びながら 誰かに伝えたい アイラブユー
(『ホームレス銀河』)命がけで遊ぼう
(『青い空』)あそびにきてね
(『オーロラの国』)
こうして見ると、「あそぶ」という言葉は永原の本質を端的に表す言葉のひとつだという気がしてくるし、彼女がこの言葉を「自分らしい理想的な生き方」の類義語として使っているような気もしてくる。
そしてそれを求めることこそが生きることそのものなのだ、というメッセージとして解釈することもできるのではないか。
だから、「あそぶ」ことを求めるのは、それ自体が偉大なる渇望=GREAT HUNGRYなのだ。
大いにあそんだ2ヶ月にわたるツアー『まなっちゃんのGREAT HUNGRY TOUR 2018』を通して、永原真夏はそのことを表現し続けていた――という仮説をもって、このレポートを締めたい。
なんだか途中からライブレポートではなく評論めいた文章になってしまった気がするが、これもひとつの「あそび」だと解釈していただければ幸いだ。
もっとあそんでいきよう。
<セットリスト>
1. 僕の怒り 君の光
2. HAPPY GO LUCKY
3. FIRE
4. バイオロジー
5. ロックンロール
6. 原チャリで荒野を行くのだ
7. うさぎ春日
8. ホームレス銀河
9. 青い空
10. 平和
11. リトルタイガー
12. 応答しな!ハートブレイカー
13. あそんでいきよう
14. ダンサー・イン・ザ・ポエトリー
15. フォルテシモ
En 1. SUPER GOOD
En 2. オーロラの国
W En. ロックンロール
<リリース情報>
永原真夏 1st Full Album『GREAT HUNGRY』
2018.03.07 Release
【初回限定盤】DDCB-94018 / ¥2,778+税
【通常盤】DDCB-14058 / ¥2,315+税
<ライブ情報>
永原真夏定期音楽会 『HOME GIRL』
2018年7月15日(日)京都 きんせ旅館
2018年7月22日(日)東京 南青山MANDALA
詳細:https://www.manatsunagahara.com/live
<永原真夏オフィシャルWEBサイト>
www.manatsunagahara.com
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