Rachel(レイチェル)とMamiko(マミコ)の2人からなる女子ラップユニットchelmico(チェルミコ)がアルバム『POWER』をリリースし、メジャーデビュー。キャッチーなメロディに乗せる2人のフロウとスキルは、メジャーデビュー前からすでに大きな評価を受けていた。そんな2人のラップには、本人たちが実際に経験したことが多く反映されているという。Mamikoは自身のリリックを「日記」だと表現する。だとしたら、2人のパーソナルな事柄について深掘りすれば、chelmicoの音楽をより楽しめるようになるのではないか? そこで、音楽の話ではなく、2人が好きな本と映画について紹介してもらい、それらと自分の恋愛観がどのようにつながっているのかを語ってもらうことにした。結論を先に言うと、本と映画と恋の話は、意外なほど2人のキャラクターやスタンスの違いを明確に浮きあがらせた。
Photography_Emi
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Kenta Baba
(chelmico『OK, Cheers!』ティザー映像)
Mamikoの1冊:大泉洋『大泉エッセイ~僕が綴った16年』
Mamiko : わたし『水曜どうでしょう』が大好きなんです。それで大泉洋さんのことが好きになって本を買いました。2016年くらいだったかな。『大泉洋エッセイ~僕が綴った16年』は、大泉さんが3つの雑誌で連載していた文章を集めた本です。『水曜どうでしょう』が始まった翌年からのことが書いてあって、裏話がすごく面白い。番組が終わった後のことも書いてある。大泉さんが大学生だった頃のエピソードも、読んでてちょっと恥ずかしいくらい内容が若々しくて驚きがあります。「大泉さんこんなこと考えてたんだ!」みたいな。それと、今の大泉さんが一つひとつ振り返って欄外にコメントを書いてるんですね。この時こんなこと書いてるけど、こうだったな、とか。
Rachel : 副音声だ。
Mamiko : それがまた面白いんです。絵日記もあるんですけど、味があるんですわ、これがまた。
Rachel : ほんとだ! いいね! 今度グッズデザインしてもらおうよ!
Mamiko : 次のジャケお願いしたいね。だからこの本には大泉さんの良さが全部詰まってる。
――とにかく大泉さんがめっちゃ好きなんですね。
Mamiko : そうですね。結婚したい! 顔が好き。
――顔、ですか。
Mamiko : でも顔ならバナナマンの設楽さんも好き。
――大泉さんと設楽さんは、顔的にちょっと共通点がある気がしますね。
Rachel : たしかに。顔似てる。
Mamiko : 森田まさのり顔なのよ。
――Mamikoさんのリリックに大泉さんのエッセイは影響を与えていますか?
Mamiko : まったくないです。一切ない。……いや、悩んだんですよ、今日そういうことを聞かれると思って。でも、本や映画はわたしにとって楽しむものであって、それらがラップに影響を及ぼすようなことはほとんどないんです。完全に趣味。お笑いとラジオ、その延長線上に本や映画があるんですよね。逆にRachelはそういうのたくさん取り入れてるけど。
――じゃあ、Mamikoさんのリリックはどんなところからインスピレーションを受けてるんでしょう?
Mamiko : たぶん、人と会うことだと思います。わたしのラップは日記なので、誰かと会った次の日に「そういえば昨日こうだったなあ」って思い返して書いたものがラップになります。だからわたしのインスピレーションは人と会うこと。あとはいろんな場所に行くこと。
――以前、「恋愛が激動な時はリリックが書ける」とおっしゃっていたインタビューを読みました。
Mamiko : ああ、言いました(笑)。でもそれもRachelの方が強いんじゃないかなあ。
Rachel : そうだけど、恋愛も「人と会う」っていうことだよね。
Mamiko : そうだね。良い意味でも悪い意味でもショックなことが起きると書きやすい。
Rachel : ショックなことって、だいたい人からしか得られないもんね。友だちとの関係がこじれることやうまくいくこと、ぜんぶ人。あ、でも音楽を聴いてインスピレーションを得ることはあるかもね。
Mamiko : うん。本と映画からも間接的には影響を受けてるかもしれないけど、このリリックはこの作品に影響を受けました、って説明することは難しい。
――なるほど。でもそういうスタンスがMamikoさんのラップにはにじみ出てる気がしますね。大泉さんに限らず、エッセイ自体が好きですか?
Mamiko : 大大大好きですね。
Rachel : 物語よりもエッセイをたくさん読んでるんじゃない?
Mamiko : そうかも。でも物語が嫌いってわけじゃなくて、たまたま読む本がエッセイだった、っていうことが多い。そもそもお笑いから入っているので、お笑いの人が書いてる本、となるとエッセイが多くなる。
Rachelの1本:『ファイト・クラブ』
――では次、Rachelさんは、映画ですね。
Rachel名 : 特に歌詞に入れているわけではないけど、映画だとやっぱり『ファイト・クラブ』ですね。あの映画は時勢も反映させていますよね。「こんなにモノっているのかな」っていう消費社会への問題提起をして、最後にモノをぶっ壊して終わる。わたしも同じ考え方なので、『ファイト・クラブ』を観るまで閉塞感を抱いていました。一時期、欲望のない時期があったんです。「これもいらねー、あれもいらねー、全部捨ててー」って。その時の気持ちは『Honey Boney』という曲に反映させてるんですけど。
(chelmico『Honey Boney』MV)
Rachel : だから『ファイト・クラブ』からはそういう面でもすごく刺激をもらいました。サントラもめっちゃ良いんですよね。
Mamiko : 『ファイト・クラブ』のサントラは神。
Rachel : いつ観ても昔の映画だとは思えない。「今年の映画です」って観せられても違和感ないし、何度でも感動する。わたしもそういう音楽をつくりたい。
――『ファイト・クラブ』を観たきっかけは。
Rachel : 友だちがおすすめしてくれました。ずっと前に観たことがあったんですけど、憶えてなくて。もう一回観てみようと思って観たらめちゃくちゃ面白かった。それが実はわりと最近のことなんですよね。5年前くらい前かな。
――特に好きなシーンはありますか?
Rachel : その質問はオカシイじゃん~。ダメでしょ~、そんなこと聞いちゃ~(笑)。
――ですよねー(笑)。
Rachel : 全部好きだし、全部言えるんだよな~。2000回以上観てるんで。……いや、2000回はウソだけど、100回は観てる。それこそヘレナ・ボナム=カーターが最初に出てくるシーンもカッコ良いし。……カッコ良いんだよなー、ずーっと。
――最後のシーン特にカッコ良いですよね。
Rachel : あのシーンは文句なしですよね。ビルのなかでね……ハア~、最高。観たくなってきたわ。もう全部カッコ良い。映像も音楽も衣装もキャラクターもセリフも設定もカッコ良くて、もうパーフェクト映画。
――原作読みました? チャック・パラニュークの小説。
Rachel : 読んでないんですよね~。読みたいな。できれば原文で読みたい。翻訳だと、やっぱり訳者によってニュアンスが変わってきちゃうから。……ま、英語読めないんだけど(笑)。いやわかるんだけど、100%読めるとは限らない。
――デヴィッド・フィンチャーの他の作品も好きですか?
Rachel : 結構ハマりました。映画を監督単位で観るようになったきっかけがフィンチャーだったかもしれないです。映画好きになったきっかけでもある。フィンチャーの作品で好きなのは……、全部好きだから悩むけど、『セブン』と『ゴーン・ガール』かな。でも結局わたしのなかのマスターピースは『ファイト・クラブ』ですね。これは図抜けて好き。まあ、うん、全部好きですわ。
「恋しても平熱」
――ちなみにお2人とも、映画や本にまつわる恋の思い出ってありますか?
Rachel : ありそうですよね? でも今思い出せないな。昔好きだった人が好きだった映画とか絶対あるんだけどなー。マミちゃんはある?
Mamiko : うーん、好きな人と共有は……。
Rachel : しないか。たぶんヲタクすぎるんだよね。でも、ないの? 一緒に観に行った映画とか、貸し借りした本とか。
Mamiko : そういうの、まっっったくしないわ。貸し借り……共有……しないっすね。
――好きな本や映画を人にすすめたりは?
Mamiko : そういう気持ちにもなんない。
Rachel : マミちゃんは「これ良かったよ」とか言わないもんね。
Mamiko : 言わない。聞かれたら答えるけど。なんでなんだろう。……え、思い出ないじゃんわたし。
――好きな人の好みに影響を受けることは?
Mamiko : ないことはない。けど、影響を受けるってほどではないかも。「じゃあ観とくわー→面白かったよ!」くらい。あんまり、ガーッと熱中しないのかもしれない。
Rachel : 平熱だよね。
Mamiko : 恋しても平熱。
Rachel : 浮かれないよねー。
――「恋しても平熱」で1曲つくれそう。
Rachel : たしかに、マミちゃんがウキウキしてるの見たことないわ。
――そうなんですか? 今回、『Date』っていうウキウキした曲がありましたけど。
Mamiko : あれはウキウキしてますよね?
Rachel : あのウキウキは嘘ですよ。
――嘘だったんですか(笑)。
Rachel : ずーっと嘘。
Mamiko : いや嘘じゃないわ(笑)。
――レコーディングの時に無表情だったとか。
Mamiko : いやめっちゃ笑顔でしたよ!
Rachel : 無表情で、感情なさすぎてよだれ垂れてましたよ。
――やば。
Mamiko : 「やば」じゃねーよ(笑)。ちげーし。
Rachel : (笑)。
Mamiko、兄の英才教育によりメジャーデビュー。
Mamiko : まあ、あんまり感情が表に出ないんですよね。
――小さい頃からそうですか?
Mamiko : そうなのかな……いや? そんなこともない……というか、出ないわけじゃないですよ。むしろちっちゃい頃の方が出なかった気がする。
Rachel : でも自分からあんま言ってこないタイプだと思う。
――子どもの頃ひとりでいることが多かったとか。
Mamiko : どうだろう? でも兄が2人いて、お兄ちゃんの影響は受けたと思います。音楽はそうだし、お笑いも最初はお兄ちゃんから仕込まれたんで。だから価値観を形成するにあたってお兄ちゃんの影響が強いかも。……いや、そんな強くないかも、わかんない(笑)。
Rachel : 勝手にCDが置いてあった話、わたし好きだよ。
Mamiko : ああ。小学生の頃、家帰ってきたらテーブルの上にKGDR(キングギドラ)のCDとか『リチャードホール』のDVDが、課題図書みたいな感じで置いてあって。
――お兄さんはMamikoさんとめちゃくちゃシェアしようとしてますね。
Mamiko : そうですね。年が結構離れてるので、子どもに教えるような感覚だったのかもしれない。
Rachel : 面白がってたんじゃない? どういうふうに成長するのかなーって。芸を仕込むように。
――お兄ちゃんに英才教育されて、見事にメジャーデビューしちゃったと。
Rachel : お兄ちゃんの英才教育が実った。
Mamiko : たしかに。……全然恋の話出てこないや。Rachel何かないの?
Rachel : 誰かと一緒に観に行った映画、だいたい外れるんだよなー。
Mamiko : あっ、でも恋ではないけど、うちら『TOKYO TRIBE』がきっかけじゃん。
Rachel : 2人で『TOKYO TRIBE』観てラップ始めたもんね。
Mamiko : 気が大きくなってね。
Rachel : すごい縁なんですよ。2人で『TOKYO TRIBE』観て気が大きくなってる日に「ラップやれば?」って言われたので。『TOKYO TRIBE』がうちらをつなげてくれたと言っても過言ではない。チェルミコの縁結び映画。……まあ、映画の内容はほとんど憶えてないんだけど、気が大きくなったことはハッキリ憶えてる。あと『ストレイト・アウタ・コンプトン』も一緒に観たよね。あれ面白かった。
Mamiko : めちゃくちゃ面白かった!
Rachel : その日にアイスキューブのCD買ったよね。
Mamiko : 全部買った。
Rachel : その時も気が大きくなりましたね。「ウチら一旗あげようぜ」って、金のネックレスとか付けたよね。ハマった時はガーッと影響されます。
(chelmicok『Highlight』MV)
Rachel、乙女ロード爆進中!
Rachel : あっ、思い出した。わたし本とかCDを貸し借りするのめっちゃ好きなので、そういうエピソードありました。高校の頃の話なんですけど、当時めっちゃ陰キャだったんで、学校ではずっとノートに絵を描いてたんです。それをある時クラスの男の子に見られて「絵、うまいんだね」って言われたことがあって。「え……まあ……うん……そ、そんなことないよ、あんまり見ないでよお」ってキョドってたら、「漫画とか好きなの? なにが好き?」って聞かれて、「『NARUTO』とか。でも『中忍』までしか読んでないけど」って答えたら、「俺、『NARUTO』全部持ってるから貸すよ」って言ってくれて。
Mamiko : えっ、なんか良い話じゃん。
Rachel : わたし朝のホームルームがはじまる30分前に教室に着いてるような子だったんだけど、その男の子も学校に来るのが早くて、毎朝、机に『NARUTO』を置いてくれてたんだよね。なんかいろいろ思い出してきた。
Mamiko : 良いねえ! どんどん思い出すじゃん!
Rachel : 全然、恋とかじゃないんですけど、「この学校にも趣味が合う男の子がいるんだな」って思って。毎回『NARUTO』を貸してもらって最新刊まで読んだなあ。だから『NARUTO』は思い出深くて、大好きになりました。
――借りて読んだ後は、感想を言い合ったり?
Rachel : 何も話さないんです。
――えー!?
Rachel : 会話なし。そこがまた良いんだよなあ。
Mamiko : いいなー!
Rachel : 喋ったとしても「ありがとう、面白かったよ」って言うくらい。あとメモ残したりとか。
――メモを残すのは素敵ですね。
Rachel : でもメールとかもしない。陰キャなので……。ヤンキーしかいない学校だったから、漫画を好きな子があんまりいなかったんですよね。だからその男の子にとっては、漫画好きの女の子がミステリアスに見えたのかもしれない。今思えば、わたしのことをちょっと知りたいと思ってくれてたのかも。あー、あの子、今何してんだろうなー。〇〇くん。あっ、名前は書かないでくださいね。
Mamiko : 書いときなよー!
Rachel : ダメだよ!
――それはRachelさんにとって……恋?
Rachel : 気になってはいたかも。……好きだったのかな。えー? わたしたち両思いだったのかなー!?
――Rachelさんって、リリックを読むとすごく乙女なんじゃないかと思ってたんですけど。
Mamiko : Rachelめっちゃ乙女です!
――たとえば「あなた以外まるでチンパンジーのように見えちゃうよ(『Good Morning』)」というリリックなんて、すごくかわいいですよね。「あなたしか見えない」という歌詞はよく聞くけどちょっと嘘っぽい。でも他の人がみんなチンパンジーに見えちゃうっていうのは、絶妙にリアリティがあって、恋心が伝わってきて、素敵です。
Rachel : ほんとにそう見えたんで、その通り書きましたね。めっちゃ乙女だと思います。フツーに占いとか好きだし。気になる人いたらすぐ生年月日聞いちゃうし、雑誌とか見て「相性バッチリ~♪ もし付き合ったらどうしよう」とか想像しちゃう。乙女ロード爆進中です!
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