名付けえぬもの
さて、レポートの後半部分が駆け足になってしまったが、それには理由がある。
というのも、ちょうどライブが『Newspeak』と『noiseful world』を迎えた頃から、筆者はこれらの曲が持つメッセージ通りの感覚に陥ってしまったのだった。つまり、思考が止まってしまったのだ。
なぜ思考が止まってしまったかと言えば、目の前で起こっているぼくりりのステージを表現する言葉が見つからなかったからだ。言葉が見つからなければ思考は止まる。
このステージを見てから数日が経った今、こうしてレポートを書いていても、「乾いた言葉を並べて意味を求めて彷徨い歩く(『Newspeak』より)」状態が続いている。パーソナルな書き方になってしまうが、ぼくりりのライブは、筆者の中の何かを変えてしまったように思う。
……なんだか急に曖昧レポートになってしまった。こんな文章はレポートになっていないのではないかという気がする。
しかし同時に、これこそがアートを受け止めた時の正しい反応なのではないかという気もする。
考えてみれば、何らかのアートについて書くという行為は、少なからず矛盾を含んでいる。なぜなら、アートとは、言葉で表現できない何かを表現することだからだ。
それなのに、私たちは日々、スマホやパソコンでアートについてごく自然に何かを書くし、今日見たライブの感想をツイッターにあげたりする。そして他人が書いた感想や評論のような文章を日常的に読んでもいる。
しかし、本当のアートは、簡単には言葉にできないはずだ。なぜなら、本当のアートは私たちの感覚を更新するものだからだ。
だから、たとえば真に革新的な音楽に触れた時、言葉が見つからないのは当然のことかもしれない。それを、さもわかったふうに曖昧に書いたり読んだりすることに私たちは慣れてしまっているが、そうした言説には本当は何の価値もない。ぼくりりの言葉を借りれば「評論家の類はまとめて削除」だ(ミーティア『ぼくのりりっくのぼうよみと考えるpost-truthな世界』)。
だったら、正直にそう書いてしまった方がいいのではないか?
つまり、だから、こういう感じで――「ぼくりり、ハンパないって!!」
……や、決してふざけてるわけじゃないです。
それほどに、この日のぼくりりのステージは名付けえぬ何かであって、なじみのある言葉が当てはまらない真のアートの可能性を放っていたように思う。
そして、改めて驚くべきことに、そうした名づけ得ぬ何かを体現していたのが、肌もツルツルのかわいい顔をした19歳の少年なのだ。
ぼくのりりっくのぼうよみという若いアーティストは、「新時代の才能」だとか「ネットラップ出身の新しい感覚」みたいな文脈で語られがちだが、もしかすると、私たちが考えているよりも重要なアーティストなのではないか。
ライブが終わった後も会場はしばらく湧き続けていたが、筆者はやはり、最後まで重要な何かを見落しているような気がしていた。それがいったい何だったのか、あれから数日間ずっと考えているが、答えが見つからない。
……で、考えた末にポンと出てきたのが、本記事のタイトルになった仮説というわけ。
もし、ぼくりりが、未来の人類が送ったVRだとすれば、彼のつかみどころのなさ、あまりにも早熟で完成された才能、『Noah’s Ark』という作品の必然性まで、すべてに説明がつくのでは!!!!!
ぼくのりりっくのぼうよみって、未来の人類が現代に送ったVRなのでは???
ぼくりりVRあらすじ
〜〜20XX年、止まることを知らぬテクノロジーの発達により人間の情報処理能力は限界を越え、多くの人々が自由意志を失い、情報の洪水の中で息絶えた。しかし賢者ノアは、VRによって2010年代にメッセージを送ることを思いついた。「歴史を紐解けば、分岐点は2010年代にあった。あの時に人類が自由意志の大切さに気づいていれば、我々はこんな悲惨な世界に生きなくてよかったのだ」。賢者ノアは、様々なデータを用いて当時の人々に受け入れられやすい少年の姿を創造し、彼を「ぼくのりりっくのぼうよみ」と名付けた。属性は「ミュージシャン」とした。そして、相対性理論の応用によって2010年代の日本にVR(Virtual Reality)を送信することに成功した。こうして2010年代の日本人は『Noah’s Ark』というアルバムを受け取ることになるのだが……(To Be Continued)〜〜
…………。
信じるか信じないかは、あなた次第です。
セットリスト
M1: Black Bird
M2: CITI
M3: sub/objective
M4: Collapse
M5: 本能
M6: Summer Love
M7: SKY’s the limit
M8: つきとさなぎ
M9: Sunrise(re-build)
(第2部)
M10: Be Noble
M11: shadow
M12: 在り処
M13: 予告編
M14: 対象a
M15: Waterboarding
M16: Newspeak
M17: noiseful world
M18: liar
M19: Noah’s Ark
M20: after that
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