2016年8月14日。デビュー25周年を迎えるSMAPは、年内をもっての解散を発表した。
彼等のデビュー記念日、9月9日まで残り数週間というタイミングでのあまりにも悲しい幕引きとなった。
本稿では音楽グループとしてSMAPがどれだけ魅力的な存在であったか、改めて考えてみたい。
SMAPが初のアルバムチャート1位を獲得した、1995年の作品『SMAP 007~Gold Singer~』を中心に、彼等のアートワークと楽曲の魅力に迫る。
実は遅咲きだったSMAP
SMAPほど、ジャニーズ事務所所属のアイドルとして遅咲きなグループも少ない。
1991年、SMAPは「きらきら星」をサンプリングしたデビューシングル『Can’t Stop!! -LOVING-』をリリース。
翌1992年にはファーストアルバム『SMAP 001』を発売した。
前者は週間チャートで2位。後者の売上は14位に落ち込んだ。
SMAPがアルバム『SMAP 007~Gold Singer~』を発売し、チャートで1位を獲得するのは1995年のこと。
実にデビューから4年の月日を要している。『SMAP 007』は彼等にとって、7枚目のアルバムだった。
ジャニーズ事務所のアイドルのデビューシングル、ファーストアルバムが共にチャートで一位を獲得できなかったことの意味は重い。
田原俊彦、近藤真彦、少年隊、光GENJI。
彼等のデビューシングルは、いずれもいまも歌い継がれる名曲ばかりだ。ジャニーズのアイドルは1980年代という日本が最も華やかで、誰しもがブラウン管の中の世界に憧れた時代のアイコンとなった。
そうしたアイコンらの主戦場として機能していた歌番組「ザ・ベストテン」が1989年に終了。
1990年代に突入し、新たにデビューしたSMAPはそうしたタレントが築いた「成功ルート」を歩むことが出来なかったのだ。
SMAPは全く新しいアイドル像を確立していく必要に迫られた。
男性アイドル冬の時代
1990年代初頭、男性アイドルグループの多くが苦境に立たされていた。
例えば、SMAPがデビューした1991年の年間チャートで1位を獲得した楽曲は、小田和正の『Oh! Yeah!/ラブ・ストーリーは突然に』。
トップ20位以内にジャニーズ事務所所属の男性アイドルの姿はない。
翌1992年の1位は、米米CLUB『君がいるだけで/愛してる』。
この年の3位にはB’z『BLOWIN’/TIME』が入っている。
世間はバンド・ブームに沸いていた。
アイドルは時代の変化に、常に敏感な存在だ。
SMAPが変化に対し、どのように対応していったか。その変遷は、アートワークと楽曲の両面から追うことが出来る。
革新的なアートワーク
彼等のデビューアルバム『SMAP 001』から、サードアルバム『SMAP 003』までの三作にはアートワークにSMAPの6人(中居正広、木村拓哉、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾、森且行)の、まだあどけなさを残す肖像が掲載されている。
アイドルにとって「顔」は言わば、代名詞のようなものだ。
アートワークに変化が起きるのは、1993年発売の4枚目のアルバム『SMAP 004』からだ。
『SMAP 004』を境に、SMAPのアートワークからは6人の「顔」が消える。
(SMAP/SMAP 004)
(SMAP/SMAP 005)
(SMAP/SMAP 006 ~SEXY SIX~)
光GENJIのディスコグラフィと比べると、SMAPがアートワークに顔を出さないことが如何に異例なことかが分かる。
(光GENJI/光GENJI)
アートワークの工夫を通じて、アイドル冬の時代に、彼等は既存のアイドルのイメージや枠組みを壊そうとしているかのようでもある。
『大人』のSMAP
『SMAP 004』以降の流れは、フリッパーズ・ギターを手掛けたアートディレクター、信藤三雄を迎えた1995年の作品『SMAP 007~Gold Singer~』にて結実する。
ジャケットを飾るのは、着ぐるみのリス。SMAPのメンバーの姿は無い。
必然的にこの作品を手にしたリスナーは、彼等の「見た目」ではなく「楽曲」や「歌詞」にこそ注目するであろう。
『SMAP 007』は、一言で言えば「大人の作品」だ。このアルバムに収録された6人の歌声には、もはやそれまでの作品のようなあどけなさや少年らしさはほとんど感じられない。
愛と金についてグルーヴィーなサウンドに乗せ、歌う『KANSHAして』。
コミュニケーションがうまく取れず、すれ違う男女の姿を取り上げた『しようよ』。
『たぶんオーライ』の主題は恋愛よりも、むしろ人生の苦楽にある。
本作の白眉は『SMAP 006』以降のジャズ・サウンドの流れを汲み、実現されたニューヨーク・レコーディングによる、バックトラックの完成度の高さだ。
例えば、アルバムの最後に収録されている『Theme of 007 (James Bond Theme)』。映画『007』シリーズのテーマソングのカバーである。トラックには、SMAPのボーカルは収録されていない。
演奏に参加しているメンバーは『ヘヴィー・メタル・ビバップ』等の作品で知られるブレッカー・ブラザーズや、ジャコ・パストリアスが在籍したことでも知られるフュージョン界の最重要グループ、ウェザー・リポートのメンバー、オマー・ハキムら。
ニューヨーク・レコーディングに参加したミュージシャンらはその後、ユニット『Smappies』を結成。SMAPの楽曲のジャズ・カバーを中心とする音楽活動を開始し、二枚のアルバムを残した。
(Smappies/SMAPPIES~Rhythmsticks)
SMAPはアートワークに顔を出さないことにより、彼等の先輩に当たる名だたるジャニーズのタレントとは異なる新たなビジュアル・イメージを獲得した。
そしてニューヨーク・レコーディングを通じ、世界的ミュージシャンのサポートを得て、楽曲面においても「少年」から「大人」へと脱皮を果たした。
SMAPはどのような時にも、新たなアイドル像を積極的に検討し、成長を遂げてきた。
SMAPがいまもなお、トップアイドルと目されるのは彼等が挑戦を繰り返し、失敗と成功を重ねてきたからに他ならないのだ。
記念すべきデビュー25周年の年に、彼等は解散を発表した。
ラストシングルの発売はあるのか。
解散コンサートの開催はあるのか。
そのどちらもが8月14日現在、明らかにはされていない。年末の紅白歌合戦への出場は辞退が濃厚ともされるが、それも推測の域を出ない。
彼等が再びファンの前に姿を現し、一連の報道について語るのをいまは待ちたい。
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文章:九十現音(https://twitter.com/kujujuju0206)
イラスト:いねいみやこ(https://twitter.com/miyako0630)
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