底辺からの言葉
しかし、『恥知ラズ』という曲名が示すように、彼はその内向性の中にとどまらない。彼はそれだけでなく、外にも出ていく。つまり、「自分自身を恥だと思っている事」・「他人にも恥ずかしい部分が沢山ある事」、この二点を踏まえた上で、葛藤した感情そのものを『恥知ラズ』という曲そのものによって表現する。
『恥知ラズ』なのは、呂布カルマというラッパー自身であるが、ラッパーというのは「人間を辞めた」存在でもある。
だが、「人間を辞めた」、「恥知ラズ」なラッパーにしか語れない言葉、いわば底辺からの言葉というものがあるのではないか。呂布カルマはその場所に開き直り、居直る。
彼の言葉に力があるのは、彼が自分が恥ずかしい存在だと包み隠さずに露わにしていると共に、そこにどっしりと開き直っているからだ。だからこそ「糞と知っててつい踏んだRymer」にも特殊な力が宿る事になる。呂布カルマにはそんな両義性が備わっている。
「君のアドバイスは有り難く無視/俺は俺で俺のrapするし」
――呂布カルマ『イカレテロ』
こんな詞を書ける人間というのは、大抵は密かに、「君のアドバイス」を気にしている人物でもある。
こうした詞は「君のアドバイス」を過剰に気にする自意識の持ち主が、それに反抗する時にしか現れない。反抗というのは愛情を含んでいる事もある。排除と反抗は違う。呂布カルマは「君のアドバイス」に対して反抗しているが同時に「君」の事を大切に思っているようにも見える。
呂布カルマは「君」に対して時に、攻撃的な台詞を投げつけるが、それは「君」の存在をいつも感じ、尊重しているからでもある。
「重なる影 強く掴め/うつむくなって さぁ笑って」
――呂布カルマ『イカレテロ』
このように、呂布カルマの曲には至る所、独特な葛藤が見られる。
この葛藤を葛藤として表現できる力が、同様に現代の社会の中で葛藤を持っているリスナーを惹きつける存在となっている要因と思われる。
したがって、呂布カルマの快進撃はまだしばらくの間は続くだろうと思われる。
呂布カルマ:
日本のラッパー。これまでに四枚のアルバムをリリースしている。名古屋発のヒップホップレーベル「JET CITY PEOPLE」所属。YouTubeにPVを載せるなどのプロモーションから、近年人気を集める。そのラップは、一つ一つの言葉の重みを特徴として、背後には静かな教養を感じさせる。代表曲は『俺の勝手』『イカレテロ』など。
呂布カルマ公式Twitter
TEXT_HIFUMI YAMADA
ブログ:始まりの地点へ http://yamadahifumi.blog27.fc2.com/
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