結成から10年以上の時を経てもなお、進化し続けるアイドルグループがいる。最年少メンバーがオーディションに合格したのは小学校1年生の時。最年長メンバーでさえ、小学校5年生だった。
時を経て、今や実力No.1アイドルグループとも言われるようになった彼女たちの名は、ハロー!プロジェクトのアイドルグループ、℃-uteである。
オーディションから15年弱、ハロプロの中ではモーニング娘。に次いで二番目に長く活動してきた彼女たちだが、来年の6月、結成12年を迎えるタイミングで解散することが発表されている。
そんな℃-uteが、11月2日にトリプルAメングル『夢幻クライマックス/愛はまるで静電気/Singing~あの頃のように~』を発売し、オリコンウィークリーチャート2位を記録した。表題曲となっている『夢幻クライマックス』は、シンガーソングライターの大森靖子が作詞・作曲を手がけたことでも話題となり、℃-uteファンのみならず、ハロー!プロジェクトメンバーも絶賛するほど完成度の高い曲となっている。
大森靖子は激情派とも呼ばれるアーティストで、圧倒的な存在感と優れた音楽的センスを持ち、いまもっとも注目されるシンガーのひとりである。女性特有の感情が表現された楽曲が多く、10代20代の女性に支持されている。
そんな大森靖子だが、以前からハロプロ好きを公表しており、Twitterなどでも度々ハロプロについて言及している。2013年に発表された『ミッドナイト清純異性交遊』は、大森靖子が元モーニング娘。道重さゆみをイメージして制作したという楽曲であるが、サビに次のような歌詞がある。
春を殺して夢はひかっている
嘘でもいい 嫌いでもいい 私をみつけて
大森靖子の眼には、自らの青春を犠牲にしてモーニング娘。という夢を叶えてきた道重さゆみが光って見えていたのだろう。少女時代から「女子」に興味があったという大森靖子にとって、どんなに執着しても自分を許してくれる“アイドル”という存在は特別だったはずだ。
『ミッドナイト清純異性交遊』は道重自らラジオで取り上げたことで話題となり、大森靖子の存在はハロプロファンの間でも注目されるようになった。
そういった経緯もあり、大森靖子が手掛ける℃-uteの新曲にファンは期待を膨らませていたのだが、完成した楽曲はその期待以上にクオリティの高いものだった。
クラシック調の楽曲に、メンバーたちの大人っぽいビジュアルが映えており、歌唱力や表現力などパフォーマンスは今更言及するまでもなく、℃-uteが培ってきた14年以上のキャリアを垣間見ることができる。
しかしながら、『夢幻クライマックス』の最大の特徴は他にある。歌詞にメンバーの名前が埋め込まれているのだ。
さよなら 甘い街 私をくれた人
泣き癖 笑いあい 理屈のない喜び
曖昧 未完成の 過ち悟ったけど
この部分の歌詞に注目すると、さよなら あまい【まい(萩原舞)】街 私をくれた人 なき【なっきぃ(中島早貴)】癖 笑いあい り【あいり(鈴木愛理)】屈のない喜び 曖まい み【まいみ(矢島舞美)】完成の 過ちさと【ちさと(岡井千聖)】ったけど と、メンバーの名前を読み取ることができる。
安直に散りばめられたわけではないさり気無さに、大森靖子の作詞家としてのセンスを感じると同時に、彼女の深い℃-ute愛に気づく。
ちなみに、中島早貴だけが「さき」ではなくあだ名である「なっきぃ」である理由は、℃-uteインディーズシングル『大きな愛でもてなして』の歌詞中にある、
私わかったの 寂しがりやだと 泣きそうよ
この「泣き」を「なっきぃ」が歌うことによってオーディエンスが盛り上がるというライブパフォーマンスがあるため、それに合わせたのではないだろうか。
さらに、二番の歌詞にはより愛のある演出がなされている。
あなたはわかんない おかえりからの孤独
それでも無神経に 季節が巡っていく
ここに、ある3人の名前がある。
あなたはわかんな【かんな(有原栞菜)】い おかえりか【えりか(梅田えりか)】らの孤独 それでも無神経に 季節がめぐ【めぐ(村上愛)】っていく
彼女たちはそれぞれの事情で℃-uteを卒業していったかつての℃-uteメンバーである。
2015年に℃-uteが発表したシングル『我武者LIFE』のMVの背景となっている壁にも旧メンバーたちのイニシャルが描かれていた。これはメンバーの発案によるもので、去っていったメンバーも含め℃-uteというグループがあるのだというメンバーの強い意思によるものだった。大森靖子はその想いを汲んで卒業したメンバーたちの名前も組み込んだのだと思われる。
℃-uteの解散発表を受けて、大森靖子は既に完成していた歌詞を書き直したという。それゆえ、『夢幻クライマックス』は℃-uteの終わりが強く意識された曲に仕上がっている。例えば、
いつも褒めてくれた 叱ってくれた
きっと楽になるし寂しくなるね
忘れないでいてね 憧れていてね
朽ちない面影
という歌詞は、℃-uteからファンへのメッセージのように読むことができる。私たちは来年6月以降、℃-uteのパフォーマンスを褒めることも、見ることさえ叶わない。しかし、私たちが℃-uteへの憧憬を忘れないでいれば、彼女たちの影は朽ちることはないのだろう。
抱き締めても壊れないくらい
強くなりすぎた…
ここ数年、ハロー!プロジェクトの看板グループとして活動してきた℃-uteだからこそ、この歌詞に強い説得力が生まれている。
『夢幻クライマックス』は℃-uteのラストシングルではない。しかし間違いなく、℃-uteが解散に、そして完成に向かっていく過程で必要不可欠な曲となったことは間違いないだろう。
夢幻クライマックス 最後の夜
エンドレスを刻め 斬新に
2017年6月、さいたまスーパーアリーナの舞台で『夢幻クライマックス』を歌う℃-uteは、現時点よりもさらに成長を遂げていることだろう。そのパフォーマンスが、今から楽しみである。
Text_MICHIRO FUKUDA(https://twitter.com/michiroo072)
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