2016年11月3日から吉祥寺PARCOにて開催中の『世界館 MADE BY DIS クリープハイプの脳内博覧会』に行ってきた。
本展示は、クリープハイプの4thアルバム『世界観』発売を記念して、その世界観を一つの空間として表現したもの。
テーマは「MADE BY DIS -すべてのDISにありがとう-」。
SNS上に溢れるDIS、つまり彼らに対する罵詈雑言を集めてライブ映像に重ねることでメンバーたちへの脳内へ踏み込める『世界観シアター』や、初公開となる公式活動年表『クリープハイプ年表』、限定グッズの販売、来場者がコメントを書き込める『フリーウォール』、などで構成されている。
いちばんの見所はやはり『世界観シアター』だろう。
閉鎖された暗室の前方と両脇にスクリーンが貼られ、ライブ映像が流れる。
するとその映像の上に、夥しい数の文字が被さる。
特設サイトには、展示にあわせて、尾崎世界観の次のような言葉が掲載されている。
バンドに浴びせられるディスの数々は、彼らを傷つける負の要素であると同時に、創作のエネルギー源にもなる。
それをそっくりそのまま作品にしようという試み自体は、とくに珍しいものではない。
すべての芸術には多かれ少なかれそういった側面があるからだ。
しかし、その試みがこれほど鮮やかに示された例は、たぶんそれほど多くない。
クリープハイプのライブ映像と盛り上がるファンたちの上に夥しいディスが重ねられる時、私たちは、とある疑問を持つのではないだろうか。
つまり、これらのディスは、今まさにクリープハイプの映像を見ている私たちのものではないのか、という疑問である。
あるいは、今この文章を読んでいるあなた、クリープハイプ関連の情報を目的としてこの文章に遭遇したあなたの内心の声なのではないか。
私たちは、いわゆる「成功した」人々に対して、どれほど率直にその成功を喜ぶことができるのだろうか。
その心には、1ミリも羨望や嫉妬といった感情は混ざっていないのか。それほど純粋と言えるのか。
筆者の私はクリープハイプの音楽が好きだし、尾崎世界観の小説も好きだが(レビューもしてるので、ぜひ読んでください)、彼らに対する羨望や嫉妬が1ミリもないかと聞かれたら、ちょっと怪しいかもしれない。
その「ちょっと」を言語化したら、この『世界観シアター』を埋め尽くすディスのひとつにでもなるのではないか?
私はこの展示を見ながら、心のざわつきを感じるとともに、最近観た映画『何者』を思い出した。
(映画『何者』予告編。中田ヤスタカ×米津玄師による劇中歌が最高にエモい。)
『何者』は、就活をモチーフとした映画で、監督は『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や『愛の渦』の三浦大輔。原作は『桐島、部活辞めるってよ』などで有名な朝井リョウ。
この映画をすでに観た人ならわかると思うが、映画『何者』は、私たちが普段隠している自意識をそっくり表に出して差し出すような映画である。
私たちが自意識を隠すのは、そこには人間の醜さや底意が満ち満ちているからだろう。
映画『何者』は、物語後半で、これまで隠されていた自意識がひっくり返されて一気に表に噴出する。
見かけはうまくやっていた学生同士が、実は裏ではあんなふうにお互いを観察し、分析し、批判していたことが明らかになる。
そして主人公は手酷い仕打ちを受けることになる。
こういった一連の流れは、RYMESTER宇多丸の言葉を引用すれば、「上っ面コミュニケーションの欺瞞性、ヤバみみたいなもの」を際立たせることに成功している。
(『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフルー週間映画時評ムービーウォッチメン』10月22日放送分より)
つまり、『何者』という作品は、「人間の醜い底意」と「薄っぺらい建前」を描いた作品なのであった。
話を戻すと、クリープハイプの『世界観シアター』を体験する時、私たちは「人間の醜い底意」としてのディスを目にするとともに、自分がここにいる理由が「薄っぺらい建前」なのではないかと問うことになる。
そしてその問いはやがて、「このディス自体が、あなたの中にあるものなのではないか」という問いに発展するだろう。
『世界観シアター』が闇の部分だとすると、本展示には光の部分も用意されている。
それがこの『フリーウォール』。
来場者が自由にコメントを書ける壁なのだが、ご覧の通り、すでに書き込めるスペースはない。
私も何か書こうと思っていたのだが、無理だった。
しかしこれは喜ばしいことだ。
多くのファンが来場している証であり、あれほどディスられていたクリープハイプも、今やこれほど愛されているのでした。めでたしめでたし。
なーんていう記事だったら書く必要がない。
本展示を、映画『何者』の構図を元に見直してみる。
すると、こういった考え方もできるのではないだろうか。
つまり、「人間の醜い底意」が『世界観シアター』なら、もしかして、「薄っぺらい建前」が『フリーウォール』に当たるのでは?
考えてみれば、こういった展示のフリーウォールに書かれることは、決まって良いことばかりだ。
しかしそれはどの程度本心なのだろうか。
そこには何の底意も含まれていないのだろうか。
それらが「薄っぺらい建前」ではないと、確信を持って言えるのだろうか。
「大好き」と大きな声で口にする者ほど、ディスに回った時も大きな声になるのでは? だとしたら、それらは単なるディスの裏返しなのでは? ディスも賞賛も本質的には同じ性質のものなのでは? だとしたら、私やあなたの本音とはいったい何なのか? 自意識とは何なのか?
展示は今月20日までだが、過去と現在と未来のディス、そして賞賛をも含んで、『世界館 MADE BY DIS クリープハイプの脳内博覧会』は概念として存在し続けるだろう。
それは半永久的に続く「問いかけ」なのだ。
そして、優れたアーティストは、その作品の中に必ず重要な「問いかけ」を孕ませる。
(4thアルバム『世界観』全曲トレーラー映像。クリープハイプ史上最高傑作との評も)
イベント情報
会期:2016年11月3日(木・祝)〜11月20日(日)
時間:10:00-21:00 ※最終日18:00終了 会期中無休
会場:吉祥寺パルコ 7Fイベントスペース 吉祥寺本町1-5-1
入場料:無料
お問合せ:0442-22-1765 吉祥寺パルコ 7Fイベントスペース(直通)
特設サイト
Text_SOTARO YAMADA
(https://twitter.com/ssafsaf)
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