トランプの大統領就任に揺れるアメリカ合衆国。彼はアメリカのヒーローになるのか、それとも憎まれるディラン(悪役)になるのか・・・。
前回のコラムでヒーローにも傲慢だったり適当だったりと色んなヒーローがいると綴ったが、日本だけでなく海を越えると更にそのヒーロー達のクセやキャラクターの幅は拡がりを見せる。
4度に渡って個々に日本のヒーローをご紹介してきたが、今回は日本と同じくヒーロー大国のアメリカをピックアップさせて頂きたい。
まずこのコラムでも紹介をした
・仮面ライダークウガ
・ウルトラマンパワード(アメリカの作品だが日本原作)
・仮面ライダーエグゼイド
・超光戦士シャンゼリオン
この4人のヒーローの中で一番アメリカのヒーローっぽいキャラクターと言えば、超光戦士シャンゼリオンと言えるだろう。適当だけれど憎めない。そして一番は視聴者に身近で誰よりも人間臭さがあって弱い事。
アメリカを代表するヒーローと言えばやはりアメコミ出身のヒーロー達。スパイダーマン、キャプテン・アメリカ、アイアンマンなどのマーヴルコミックスで大人気のヒーローや、DCコミックスのスーパーマンやバットマンなど、何百何千とヒーローがいるが、彼らに良く見て取れる印象がとにかく「人間臭い」。
最近はアメコミ原作のハリウッド映画のヒット続出で目に付く事が多いと思うが、この様な印象は少なからずとも受けたのではないだろうか。
まずスパイダーマンはどこにでもいそうな貧素で弱々しい大学生兼カメラマンのピーター・パーカーが自作の戦闘スーツで闘う。キャプテン・アメリカは米国の徴兵検査でNGを食らうほど貧素な軍人。財力と知識を注ぎアイアンマンとして闘うトニー・スタークは一流の会社を支える社長。バットマンは浮世離れするぐらいの資産家ではあるが、何も超人的な力を持っていないそれこそ人間中の人間。
こんな人間味のある職業を勤めながらもヒーローとして活躍する彼ら。しかしぶっ飛んだ設定の例外も数多くある。
スーパーマンのクラークはクリプトン星から地球にやって来た正真正銘の宇宙人。マイティ・ソーは異次元の神の世界からやって来たヒーロー。最近日本でも映画版が公開しヒットしたマーヴルヒーローの問題作デッドプールに関しては漫画を読む読者や、映画を見ている視聴者に話しかけ「その次元」の壁を越えて来る。
そんなリアルな職に就くヒーローや、異次元から来たヒーローと全く違うバックグラウンドでありながらも不思議と共通してるのは、やはり「人間臭い」事なのだ。メンタルが人間そのものでとにかく悩むし打たれ弱い。
それに比べて日本のヒーロー(特にアメコミ繁栄期と同時期の昭和のヒーローたち)は、初めから政府公認の特殊機関に属していたり、最高峰の科学を結集した組織にいたり、組織が巨大だったり、ロボットだったりと、お膳立てが既に空想で絵空事な設定が多い。そして正義感が前に出て熱血。悩んだとしてもアメコミのヒーローの様に何週分に渡って悩み続ける事はまず無い。
ではなぜ日本のべらぼうに正義感のあるヒーローに比べ、アメリカのヒーローの方が人間味があってメンタルが弱いのか。
まずアメリカはお国柄自分の身を守るのは自分や家族という風潮がどうしても強い。なので一個人が銃を持ち犯罪と向き合う。もちろん警察や軍隊も心強いのだが、ハリウッド映画を見ていても良く一般人の一個人がアクション映画の主人公になる事が多い。
それに比べ日本は個人で制裁をするには程遠く、警察や政府、自衛隊などにすぐに頼る意識が当たり前の様にある。(本当にそれが当たり前なのだが)それと同じく日本のヒーローはどこかの機関に属している事が多く、初めから5人組だったり、隊長の出動命令などで動く事が多い。あのウルトラマンでさえ実は意識と肉体がバラバラなのだから、一個人では無いのだ。
そんな特徴から分かる様に、悪に勝てなかったら、守りたい人を守れなかったらどうなるのか。そして孤独にヒーローとして闘い続ける事に疑問を抱いたり、嫌気がさしたり・・・と悩みやすいのは至極同然、個人の意思で闘うアメリカのヒーローなのだ。
そんな生身のヒーローにアメリカ国民は、自分を投影し夢中になるのだ。
アメリカのヒーローはそんな現実主義なリアルなキャラクター像に加え、興味深い特徴がある。それが、時代背景との濃密すぎるリンクだ。
実際に第二次世界大戦の真っ只中にアメリカで人気を博したヒーロー、キャプテンアメリカは青と赤と白のストライプに身を包む愛国心の塊。敵はヒトラーの側近でナチスからの刺客、怪人レッドスカルと、その当時のファシズムこそ悪という状況を作品に取り入れている。
第二次世界大戦が終わっても、冷戦中にキャプテンアメリカは枢軸国と戦った。(ファシズムと違いただ共産主義に暴力を振るうだけのこの作品は打ち切りになるほど批判が多かった)
アイアンマンのトニー・スタークも劇中、武器商人としてベトナム戦争に仕方なく加勢するが、ベトナム戦争の悪化に伴いその犠牲の巨悪根源としてアイアンマンの読者への人気は窮地に。それを受けマーヴルコミックスは、トニー・スタークが武器商売から手を引く描写がされた。
記憶に新しいのは9.11に起きたあの悲惨なテロ。その時描かれたのはスパイダーマンが人民救助に精を出す姿が描かれ、悪役のヴィラン達までもが心を傷めていた。
キャプテンアメリカはテロで犠牲になった家族の仇を取ろうと中東系というだけで襲われる青年を守り、憎悪が人を盲目にすると唱えた。
・・・そしてキャプテンアメリカは真のテロリストを殺害し、アメリカが彼を殺したのではなく、私自身が報復した。非難の矛先は私に。とマスクを外し姿を国民に晒し宣言するのだ。
やはり人間臭く、個人で全てを背負い込むヒーロー。それがアメリカのヒーローなのだ・・・。
とは言え、日本のヒーローが責任感や個人の信念が全く無いわけでは無い。ウルトラマンや戦隊ヒーロー、その他巨大なヒーローを引き合いに出しアメリカのヒーローと比べてはみたが、仮面ライダーシリーズはアメリカのヒーローに近いダークな一面や、孤独さが描かれている事が多い。
しかし政治的な一面や現代社会とのリンクは皆無に等しい。日本でも戦前〜戦時中は「のらくろ」などの軍国主義漫画もあったが、終戦後にヒーローを時代に結びつける事はあまりしなくなった。
それは紛れもなく今日本が戦争を離れ平和な証拠なのかもしれない。
日本のヒーローとアメリカのヒーロー、お国柄や時代背景がここまでキャラクター像を変えるのだ。今回は2カ国のヒーローをご紹介したが、まだまだ知らないだけで世界には色んなバックグラウンドを抱えたヒーローが存在するのかもしれない。
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