2016年7月、ある一組のアイドルユニットが文字通り“華々しく”メジャーデビューを果たした。彼女たちの名は、ベッド・インである。
メンバーは、“おみ足”担当の益子寺かおり(左)と“パイオツカイデ~”担当の中尊寺まい(右)。一目見て分かる通り、彼女たちのコンセプトは「バブル」である。しかし、そこに決して古臭さを感じることはない。むしろ、一様に清純さばかりが求められる今のアイドル界にとって新しい存在なのではないだろうか。
ベッド・インにはとにかく派手さがある。今では目にする機会も少なくなったジュリ扇を片手にボディコンを纏い、バブルメイクを施した彼女たちが歌うのは無論、バブルを連想させる楽曲だ。
益子寺かおりと中尊寺まいが出会ったのは2010年頃、もともとはバブル顔仲間として一緒に飲む仲だったという。
互いに別のバンドで活動していたが意気投合し、2012年には完全セルフプロデュースで1年掛けて制作したという写真集『Bed In』を出版、2014年3月にはデビューシングル『ワケあり DANCE たてついて / POISON~プワゾン』をリリースした。
同シングルは発売と同時に話題となり、ベッド・インは知名度を大きく広げることとなった。理由として、楽曲の特異性は勿論のこと、シングルが8cmの短冊型CDで発売されたからである。
今のアイドル界において、ベッド・インが特異な存在であることは明らかである。口を開けば下ネタを連発し、相槌は喘ぎ声。バブル用語を多用し、「今抱けるアイドル」を名乗っている。
彼女たちが方々で語っている目標は、「もう一度バブルの嵐を起こして、スケベでデーハーな日本を取り戻す」ことである。確かに、バブル期というのは人々が欲望に素直であり、性に関してもオープンだった。そこには、規制や制限から解放された開けっぴろげな人間の姿があり、そして何よりも、楽しさがあった。
デビュー曲で各方面から絶賛された彼女たちは、2015年6月に2ndシングル『♂×♀×ポーカーゲーム / 消えちゃうパープルバタフライ』をリリースしている。
前曲よりもさらにバブル時代のディスコ感を意識させつつ、ロックなサウンドでバンドファンすら納得させるこの楽曲の歌詞に、次の一文がある。
女体標識(イルミネーション)ちらつかせ 女は蝶になる
「女体標識」と書いて「イルミネーション」と歌うセンスには、脱帽せざるを得ない。
彼女たちの下ネタは武器である。現代の十代のアイドルにとっての武器が無垢・処女性ならば、ベッド・インの武器は攻撃性においてはるかに優っているだろう。
3rdシングルは同年11月に発売された『C調び〜なす! / ZIG ZAG ハートブレイク』である。
『C調び〜なす!』の歌詞はより強烈なものとなっている。
合図は もっとボディコン(みたいな)
抱いてみ?ソッコー虜(みたいな)
ナイフの様なボディコン(みたいな)
24時間戦うしィ 肉食女-venus-
わたしのせいにするガメッシュ! Fu!
ここでもまた、「肉食女」と書いて「venus」と読ませるセンスが発揮されている。また、「抱いてみ?」と煽り、自らを「肉食女」と評せるアイドルは、今現在ベッド・インしかいないのではないだろうかという気にもさせられる。そういった意味で、彼女たちの楽曲は彼女たちにしか歌えないものであり、楽曲は彼女たちの象徴となっていく。
さて前述した通り、ベッド・インは2016年7月にメジャーデビューを果たした。メジャーデビューとなると規制が多くなるため、これまで通りの活動も難しくなり下ネタも禁じられるのではないかという危惧があったが、それは杞憂に終わった。彼女たちは今も規制に縛られることなく、下ネタを発し続けている。
メジャーデビューを発表する際、彼女たちは言った。
「おマクラ大性功~!」
実際に書類の調印も、キングレコード営業戦略部長とベッドの中で行っている。(※1)
そして” マンを持して”発表された1stアルバムが『RICH』である。
同アルバムに収録されている楽曲『GOLDの快感』は、ベッド・インの華やかさ・色っぽさが存分に表現されている。
止まらないの快感(We are “GOLD”)
地球ごと動かして(I am “GOD”)
ゴージャスに感じて(We get “GOLD”)
ワガママに ”GOLD RUSH”を降らすわ
彼女たちは、決して現状を憂いているのではない。それ以上に、「地球を動かす」ほどの快感を力強い歌声で私たちリスナーに届けようとしているのではないだろうか。
そして私たちは、ベッド・インを指して「イロモノ」という感想を抱くことが間違っていることに気づくだろう。彼女たちの楽曲は確かに「バブル」の印象が強いが、それも当時をただ懐古しやみくもに再現しているわけではない。彼女たちの楽曲は、「バブル」というコンセプトのおまけでもなく、本来的な意味で彼女たちの活動を表現するものである。
ベッド・インの武器が下ネタであるとしても、私たちの目に彼女たちが下品に映ることはない。
何故なら、ベッド・インに見る「バブル」は、この不景気で育った私たちが本質的に渇望しているものである上、その派手さにはどう抗っても憧れてしまうものなのだから。
メジャーデビューをしたからこそ、ベッド・インはこれからも成長を続けていくだろう。
ベッド・インが私たちに見せてくれるのは、永遠に弾けないバブルなのだ。
※1 2016年5月20日ベッド・インの“緊急射罪会見”にて
文:福田ミチロウ
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