元BiS、ミュージシャンのテンテンコほど、実直なミュージシャンも少ないであろう。
自分のやりたいことを実現するためには全力を尽くし、納得のいかないことに安直に応じることは無い。
BiS解散後、フリーランスとして個人で活動を続けていたテンテンコ。
彼女はDJ出演にとどまらず、テクノ歌謡からノイズ、アンビエントまで幅広い音楽を発表。さらに自主イベント開催やグッズ・ZINE制作、舞台出演など、ジャンルを自由に横断し、活動を展開している。
2016年6月にテンテンコはトイズファクトリーへの所属が決定したことを発表した。
8月31日にはニューシングル『放課後シンパシー』が配信にて、リリースされる。
インディーズ・カルチャー誌『アヴァンギャルドでいこう』では、2016年5月1日に発売したVol.5にてテンテンコにロング・インタビューを行った。
本稿ではロング・インタビューの内容を振り返りながら(※1)、改めてミュージシャン、テンテンコの魅力について考えてみたい。
テンテンコの活動の独自性の一つは、前述の通り、そのジャンル横断性にある。
アウトプットが多岐にわたり、その一つ一つに彼女のパーソナリティが着実に反映されている。
彼女が様々な形で創りだす良い意味でチープで、ノスタルジックで、テクノ歌謡を思わせるような世界観は非常に魅力的なものだ。
『アヴァンギャルドでいこう』のインタビューに先立ち、テンテンコは2月、雑司が谷のガレージにて物販イベント『出張テンテン商店』を開いている。
――BiS解散後のテンテンコさんは、直接ファンと会うことを重視されていますよね。
「BiSの時は、私が途中からBiSに入ったっていうのもあって、応援してくれてる人とかファンの人とかが大きな塊、巨大なものみたいな感じがしてて、その力がすごい大きかったんですけど、一人になってからは、一人一人の『人』が応援してくれてるのが物凄く感じられて。それって自分の中では衝撃的だったんですけど……あんまり私、昔から人と関わるの得意じゃなくて(笑)。」
(中略)
――つい最近(二月十四日)も、雑司ヶ谷のとある薬局のガレージを使って一日物販イベント『出張テンテン商店』をされていました。(略)
「自分で作ったものを売れる場所が欲しいとずっと思ってました。BiSで活動してた時は握手とチェキしかしてなかったからわからなかったんですけど、一人になって物販やったりお金の管理とかするとめちゃめちゃ大変なんですよね。(略)元々自分でシルクスクリーンとかもやってみたくて、そういうのやったら絶対ちゃんと見て欲しいから、お店でやれたらおもしろいなと思ってました。(略)」
こうした多角的な活動に対し、彼女は「こうした方がうまくいくとか、自分のためになるとか、そういうの全然興味ない」とも語る。
そうした発言の節々から感じ取ることが出来るのは、彼女のDIY精神の強さと、更にその裏に存在する自分自身に対する正直さ、妥協の無さである。
――ZINEだったりグッズだったり、舞台だったり出張ガレージだったり、音楽以外の活動まで幅広く作っていくのがテンテンコさんの活動の特徴の一つだと思います。(略)
「(略)こういう狙いがあってこういうことをやったら後々良いかなとか、そういうことは正直何もなくて、ただ目の前にあるできることとか、誘ってくれたこととかでしかない。こうした方がうまくいくとか、自分のためになるとか、そういうの全然興味なくて、こうしたいからやろう、今これにハマってるからやろう、でしかないです。だから人から見たら一貫性がなかったりとか、ぐちゃぐちゃに見えるかもしれないけど、自分の中では無理がないんです。自分の中から出てきたものしかやらないから。(略)」
客観的に見れば、彼女ほど知名度があり、大きな支持を集めたアイドルグループの一員としての実績があり、被写体としても魅力的な人物が2016年に至るまで個人で活動を続けていたというのは、少々不思議な事でもある。
テンテンコは自身のブログの6月18日付の記事で、下のように書いている。
そもそも、BiS解散後、どことも契約をしなかったのは、
自分が何ができるのか何をとことん死ぬまでやれるかゆっくり考えたかったからです。
この一つのことに命かけるぜ!というけれども、それは私がお婆ちゃんになってもやっているかな?やりたいかな?といつも疑問に思ってしまいます。何が正しいとかでは無く、ただ私は、たとえ誰が見ていないとしても、やれることをやっていたいと思ったのです。
――2016年6月18日付 テンテンコの日記『テンテンコから重要なお知らせ』
彼女のあまりにもピュアにも思える、真っ直ぐさ。
そうした人柄を反映した、学生時代のエピソードをテンテンコはロング・インタビューの際に語ってくれた。
――(学生時代)就職は考えなかったですか?
「就職は無理だなって(笑)。当時、全員絶対行かなきゃいけない就活セミナーみたいなのがあったんですよ。そこで自己分析をしなきゃいけなくて。それまでの自分を振り返って、自分は本当は何が好きなのか、何に向いてるのか、自分の軸を作りましょうみたいな、そういうセミナーだったんです。それをやった時に、ますます自分は向いてないと思いました。私が面接で喋ることは全部嘘じゃん、と思っちゃったんですね。そのセミナーの時も、集団面接とか個人面接の練習をするんですけど、私、全部嘘を喋ってたんですよ。◯◯の会社で◯◯したいとか、全部嘘じゃんって。そんな事言ってる自分ってひどいなって。第一志望とか書いてるけど嘘じゃん、こんなの嘘なんだから絶対入れないし、入ったところですぐ辞めちゃうよ、って思って。だからそのセミナー一回で終わりにしました」
彼女はインタビュー中、このようにも語っている。
――(略)事務所に入ったら予算的にもっと大きなことができるかもしれないですよね。
「イベントは大きくしたいですね」
――夢として自分のイベントに呼んでみたい人はいますか?
「うーん……いつかスチャダラパーさんとか呼んでみたいです。あと、それこそ戸川純さんとか。でも、まだだな、と思います」
トイズファクトリーに所属し、ニューシングルのリリースも決定したテンテンコ。
とことん、出来ることを納得いくまでやり続ける。
彼女の妥協のない、表現に対する姿勢は今後、一層多くの人を惹きつけるに違いない。
彼女がスチャダラパーを自身のイベントに招く日は、そう遠くないかもしれない。
そして、いまは何よりもミュージシャン、テンテンコが放つシングル「放課後シンパシー」の配信を楽しみに待ちたい。
※1:文中のインタビュー箇所は全て、インディーズ・カルチャー誌『アヴァンギャルドでいこう Vol.5』(2016年5月1日発売 発行元:Shiny Books)掲載記事『テンテンコ インタビュー~ただ自分がカッコ良いと思う音を~』からの引用。
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構成:九十現音(https://twitter.com/kujujuju0206)
写真:和田東雲(https://www.instagram.com/wadatouun)
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