第30回三島由紀夫賞の選考会がいよいよ5月16日に行われます。
毎年新鋭の小説に贈られるこの賞。候補作を網羅したり受賞予想をしたりなど、注目している文学ファンも多い中、「芥川賞なら聞いたことあるけど……?」という人や「小説は気になるけど純文学って難しそう」という人もいるのではないでしょうか。
しかし、三島賞が扱うのは純文学作品に限りません。それゆえ、文学ファンの間では「芥川賞よりも魅力がある」と言われることもしばしば。
では、そんな三島賞にはどんな魅力があるのでしょうか。選考会に先駆けて、三島賞について抑えておきたいポイントをご紹介します。
三島賞とは?
ニュースでもよく耳にする「芥川賞」。
純文学新人作家の登竜門とも言うべき賞ですが、三島賞と芥川賞のジャンルは実はほぼ同じ。
芥川賞は文藝春秋社内の日本文学振興会が主催、三島賞は新潮社の新潮文芸振興会が主催しています。
対象となるのは前年の4月1日から当年の3月31日の間に発表された文学作品。現在選考委員を務めているのは、川上弘美、高村薫、辻原登、平野啓一郎、町田康です。
三島賞が魅力あふれる賞と言われている理由のひとつに、芥川賞と比べて斬新な魅力を持った作品が選ばれるという傾向があります。
たとえば、第23回受賞作の東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』。
この作品は純文学小説ではなく、並行世界を扱ったSF小説。
作者の東浩紀は哲学者であり、思弁小説をいくつか発表していますが、芥川賞候補には一度も選ばれていません。
三島賞の特徴のひとつは、評価されるべき作品の取りこぼしをできるかぎり回避すること。そのコンセプトによって、純文学に限らず多ジャンルから作品が選ばれているのです。
過去の代表作な受賞作
第1回の受賞作は高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』。
以来、名だたる作家たちが三島賞を受賞してきました。
昨年、第29回の受賞作は蓮實重彦『伯爵夫人』。蓮實氏の受賞時の年齢は80歳。
「新鋭の作品に授賞する」という三島賞のコンセプトに違和感があったのか、蓮實氏は受賞後の記者会見で不快感をあらわにし、話題にもなりました。あの会見で「三島賞」の存在を知った方も少なくはないのではないでしょうか。
また、第18回の鹿島田真希『六〇〇〇度の愛』、第21回の田中慎弥『切れた鎖』、第26回の村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』、第27回の本谷有希子『自分を好きになる方法』など、三島賞受賞後に芥川賞を受賞するという例も多くあり、芥川賞に先んじてその才能を見出しているという点も魅力のひとつです。
第30回三島由紀夫賞候補作品
毎年4月に4、5作の候補作が挙げられ、5月中旬に選考会が行われます。
第30回三島賞で候補に挙がった作品は、古谷田奈月『リリース』、町屋良平『青が破れる』、宮内悠介『カブールの園』、岸政彦『ビニール傘』、高橋弘希『スイミングスクール』の5作です。
『リリース』古谷田奈月
古谷田奈月は2013年に『今年の贈り物』(単行本発売時に『星の民のクリスマス』と改題)で第25回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。
週明け17日、最新作『リリース』が発売になります。怒りと言葉について。初めての帯推薦文、千野帽子さんと豊崎由美さんにいただきました。 pic.twitter.com/jkNMQBabc9
— 古谷田奈月 (@koyata_natsuki) October 14, 2016
今回候補に挙がった『リリース』は男女同権が実現し、同性愛者がマジョリティとなった世界が舞台。私たちが暮らす現実世界が抱えている課題のひとつ、「性の自由化」が実現された世界が抱える自由の不自由さが描かれています。
『青が破れる』町屋良平
町屋良平の名前をミーティアで見たことがある人もいるのではないでしょうか。彼はクリープハイプのボーカル・尾崎世界観が注目している作家でもあります。
『青が破れる』は第53回文藝賞受賞作。アマチュアボクサー・秋吉を巡る3人の人間の「死」が、本来的におぼつかない人間の「生」の本質を暴き出そうとします。作者の独特の文章感覚も魅力のひとつ。
『カブールの園』宮内悠介
作者の宮内悠介は2010年に短編『盤上の夜』で第1回創元SF短編賞を受賞。その後、魅力あるSF作品を次々発表し、2012年には第33回日本SF大賞を受賞しています。
『カブールの園』は第156回芥川龍之介賞候補にもなっています。主人公はサンフランシスコに暮らす日系アメリカ女性。マイノリティと言われる人間のアイデンティティの彷徨いが克明に描かれています。
『ビニール傘』岸政彦
作者の岸政彦は社会学者。本作が初の小説集でもあります。
この作品が描いているのは人間誰もが抱える不安や小さな絶望。人が日常の中で生きるということ、美化されていない人間社会の末端が細かく描写されています。156回芥川龍之介賞候補にもなりました。
『スイミングスクール』高橋弘希
高橋弘希は前々回、第28回でもデビュー作『指の骨』で三島賞候補になっています。
今回の『スイミングスクール』が描いているのは、母と娘の緊張感のある関係性。正統派純文学作品らしく、どこにでもいるような、それでいて小説で描かれるべき人間たちの日常が紡がれています。
いよいよ目前に迫って来た第30回三島由紀夫賞選考会。
ニコニコ生放送では三島賞発表の瞬間および受賞者記者会見が放送される予定です。
純文学が気になる! という人は是非注目してみては?
【ニコ生(2017/05/16 17:30開始)】第30回三島賞・山周賞発表の瞬間&受賞者記者会見生放送https://t.co/6yP8TZPvEM
…待ち時間は、大森望さんと豊崎由美さんの「文学賞メッタ斬り!」コンビによる実況&作品解説を現地からお届けいたします。— 大森望 (@nzm) May 10, 2017
Text_ Michiro Fukuda
Edit_司馬ゆいか
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