毎年7月と1月に発表される芥川龍之介賞。今年も上半期の受賞作が発表される季節がやって参りました。
新人作家による純文学作品に与えられるこの文学賞は、新人作家にとっての登竜門であり、価値も知名度も非常に名誉あるものです。だからこそ注目度も高く、受賞作は各メディアでも大きく取り上げられます。
とは言え、文学にあまり詳しくない人の中には「名前だけは聞いたことあるけど……」という方もいるはず。そこで、候補作紹介と併せ、芥川賞がどのような賞であるのかについてもご紹介します。
どの作品が受賞作になるのか予想してみるのもおすすめです!
芥川賞のポイント
芥川龍之介賞は1935年に直木三十五賞とともに創設され、今回で157回目を迎えます。主催しているのは文藝春秋社内の日本文学振興会。
現在の選考委員は、小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美、吉田修一、の各氏です。
候補作として選出されるのは、上半期(7月発表)が前年の12月からその年の5月に発表された作品、下半期(1月発表)が6月から11月に発表された作品となります。
対象となる「新人作家」の「新人」の定義に対する議論はあるものの、現在では三島由紀夫賞や野間文芸新人賞など、おもに新人作家を対象とした賞の受賞を経て芥川賞にノミネートされることも多くなっています。
過去の代表的な受賞作
近年もっとも話題となった受賞作は第153回受賞作の又吉直樹『火花』です。又吉はもともとお笑い芸人だったということもあり、その受賞は各メディアでも大きく取り上げられ、普段小説を読まない人にも芥川賞の存在が広まりました。
さかのぼると、第130回受賞作金原ひとみ『蛇にピアス』、綿矢りさ『蹴りたい背中』も最年少受賞と話題になり、それまで純文学に馴染のなかった中高生も純文学を知るきっかけとなりました。
前回、第156回の受賞作は、山下澄人『しんせかい』です。
山川澄人は前回までを含め芥川賞に4回もノミネートされており、芥川賞候補の常連。幾度かのノミネートを経て受賞にいたるケースも少なくありません。
第157回芥川龍之介賞候補作品
第157回芥川賞候補に挙がっているのは、今村夏子『星の子』、温又柔『真ん中の子どもたち』、沼田真佑『影裏』、古川真人『四時過ぎの船』。
例年だと5、6作が候補に挙がっていることが多いですが、今回はこの4作となっています。
『星の子』今村夏子
(『星の子』表紙)
今村夏子(いまむら なつこ)は2010年に「あたらしい娘」で第26回太宰治賞を受賞。翌年に受賞作を改題した『こちらあみ子』でデビューしました。2016年には文学ムック『たべるのがおそいvol.1』に掲載された『あひる』で第155回芥川賞候補にもノミネートされていました。
『星の子』は中学3年生の女の子が主人公。病弱な自分のために宗教にのめりこんでいく両親と、それが原因で崩壊していく家族の物語です。異質な雰囲気を感じ取りつつもそれを肯定も否定もしない主人公と、彼女を取り巻く異質な環境が淡々と描かれている、美しい物語です。
『真ん中の子どもたち』温又柔
(『真ん中の子どもたち』表紙)
温又柔(おん ゆうじゅう)は台北生まれの作家。2009年に『好去好来歌』で第33回すばる文学賞佳作を受賞し、2011年に受賞作を収録した単行本『来福の家』を刊行しました。
『真ん中の子どもたち』の主人公・琴子は台湾人と日本人の間に生まれた大学生です。日本で育った彼女は中国語を学ぶために上海の語学学校へ留学。そこで彼女は自分と同じく台湾と日本のハーフの嘉玲と、中国人ながら日本で生まれ育った舜哉と出会います。日本で育った台湾人の作者だからこそ描ける、「母語」と「国境」によるアイデンティティを追い求めていく物語です。
『影裏』沼田真佑
(『文學界5月号』表紙)
沼田真佑(ぬまた しんすけ)は2017年、同作で第122回文學界新人賞を受賞しています。初作品が芥川賞候補となりました。
『影裏』は盛岡に転勤してきた男性が主人公。同僚の男性2人との日常の物語です。震災を主題としたストーリーの中にセクシャルマイノリティーの問題が細やかに描かれています。文學界新人賞受賞時には文章力の高さが非常に評価されていました。
『四時過ぎの船』古川真人
(『新潮6月号』表紙)
古川真人(ふるかわ まこと)は2016年『縫わんばならん』で第48回新潮新人賞を受賞し、デビュー。同作は第156回芥川芥川賞候補となっていて、2回続けてのノミネートとなりました。
『四時過ぎの船』は盲目の兄を持つ青年と認知症を患っているその祖母が描かれた作品です。祖母の記憶を辿りながら、ふたりの時間が交差する様子が優しく描かれています。
今月19日に選考会が行われる第157回芥川龍之介賞。
例年通りニコニコ生放送では、ジャーナリストの井上トシユキ、評論家の栗原裕一郎、コラムニストのペリー荻野による「第157回 芥川賞・直木賞発表&受賞者記者会見 生放送」が行われる予定です。
混戦が予想される今回。どの作品が受賞するのか、注目です。
Text_ Michiro Fukuda
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