新海誠展――「ほしのこえ」から「君の名は。」まで――
アニメーション映画監督・新海誠の商業デビュー15周年を記念し、東京・国立新美術館で「新海誠展――「ほしのこえ」から「君の名は。」まで――」が開催中だ。
会期:11月11日(土)~12月18日(月)。
公式サイト:http://shinkaimakoto-ten.com/
東京会場:http://shinkaimakoto-ten.com/tokyo/
2017年6月3日に静岡・三島の大岡信ことば館でスタートした本展は、新海誠監督の故郷である長野の小海町高原美術館を巡回し、ついに東京・国立新美術館にやってきた。本記事では、新海ファンの一人として筆者がその魅力を紹介したい。
※本レポートは全国巡回のうちの東京・国立新美術館でおこなわれた展覧会の様子です。
現在開催中の会場につきましては「新海誠展 開催情報(公式サイト)」の最新情報をご確認ください。
展覧会の概要
本展では、商業デビュー作の「ほしのこえ」(2002年)から、歴史的大ヒットを飛ばした「君の名は。」(2016年)まで、新海誠が手がけた数々の作品が一挙に紹介されている。現役のアニメーション映画監督の展覧会が国立の美術館で開催されるのは今回が初めて。多くの資料・映像・模型などの他にも、新海誠による絵コンテや、「君の名は。」の作画監督・安藤雅司による原画、「雲のむこう、約束の場所」以降、新海誠作品の品と質を担保してきた丹治匠らによる美しい美術背景などが展示されている。
大岡信ことば館
これまで2つの会場を巡回してきた本展では、その会場ならではの展示やイベントが用意されてきた。たとえば、大岡信ことば館では、詩人・大岡信が恋愛について書いた詩が常設展コーナーで特別にフィーチャーされていた。そこには、「光のくだもの」という次のような詩もあった。抜粋しよう。
遠さがきみを ぼくのなかに溢れさせる
不在がきみを ぼくの臓腑に住みつかせる夜半に八万四千の星となつて 夢をつんざき
きみがぼくを通過したときひび割れたガラス越しにぼくは見てゐた 星の八万四千が
きみをつらぬき 微塵に空へ飛び散らすのを
(大岡信『光のくだもの』)
ことば館のスタッフの方々は、きっとこれらの詩行に「君の名は。」とゆるやかに”ムスビ”つく、漠然としながらも重たさのある、確かな手応えを感じとったにちがいない。ことば館は早くも2014年に「新海誠展――きみはこの世界の、はんぶん。――」を開催しているだけに、新海監督との縁も深く、彼の作品への愛情が強く感じられた。今年で閉館するというニュースが先日伝えられたばかりだが、惜しまれてならない。
小海町高原美術館
9月2日~10月29日まで開催されていた長野の小海町高原美術館では、組紐ワークショップがおこなわれたり、映画「星を追う子ども」が上映されたりと、やはり独自色を出していた。ちなみに、新海監督はこの小海町で生まれ、電車通学の行き帰りにこの地の美しい空や雲を見て育ったという。「星を追う子ども」のロケ地もここ。
東京会場ならではの魅力
東京・国立新美術館では、展示内容がほとんど一新されている。初めて観覧する人はもちろん、他の場所ですでに観覧してきたという(筆者のような)人ももう一度楽しめるにちがいない。私見では、「物語を作りたい」という新海誠の気持ちをより前面に押し出す構成になっているように感じた。以下、みどころを3つ挙げてみよう。
みどころ1 特別企画
東京会場での楽しみの一つが、カフェ「サロン・ド・テ ロンド」とのタイアップだ。
国立新美術館は、「君の名は。」で瀧と奥寺先輩がデートする場所として映画に登場しているが、二人が一緒にランチを取っているカフェこそ、この「サロン・ド・テ ロンド」なのだ。会期中は、二人が座った席を予約して、そこでサンドイッチセットを注文できるという。デートにはもってこいだし、たとえ一人でもファンなら……チャレンジ!!
また、「ほしのこえ」から「言の葉の庭」までの過去作の上映も予定されている。
詳細は公式サイトで要確認↓
http://shinkaimakoto-ten.com/tokyo/
みどころ2 ムービー
古参のファンにとってうれしいのが、新海誠がゲーム会社に勤務していた頃に制作した「イースⅡ エターナル」のオープニング映像を見られることだ。美術館でゆっくり視聴できるチャンスはまずないので、今回の展示はかなり貴重だと言っていい。
明日から国立新美術館で開催される「新海誠展」、今日は神木くんと一緒に会見などさせていただいています。展示にはまさかのこんなものまで!MZ-2000と絵本『すてきな三にんぐみ』、その奥には『イース2エターナル』のオープニング!自分の原点なんです。嬉しいなあ。 pic.twitter.com/Ckl2XyPqyT
— 新海誠 (@shinkaimakoto) 2017年11月10日
そして、会場入口すぐのオープニングムービーと、出口付近にあるクロージングムービーも必見だ。「彼女と彼女の猫」から「君の名は。」までの新海誠の過去作を有機的に再編集し、一つの映像作品として完成させている。とりわけクロージングムービーは技巧が冴えに冴えているうえ、はっきりいってエモい。見事である。
(余談だが、「雲のむこう、約束の場所」で主人公ヒロキを演じた吉岡秀隆の声が実にいい。このクロージングムービーでもキラーボイスになっており、心を持っていかれる。)
みどころ3 分析
ほかにも海外の反響をまとめたコーナーや、文芸評論家の榎本正樹氏による「6つのテーマで読み解く新海誠」のコーナーなど、他会場にはなかった展示が数多くあり、いずれも見応えがある。
特に榎本氏の分析は非常に勉強になった。
筆者はこの秋に神奈川県内の私大で新海誠と村上春樹の影響関係について講義をする機会に恵まれたのだが、そういうふうに専門的な観点から学びたいファンにも、また純粋に新海作品についてもっと詳しく知りたいファンにも、興味深い視点や切り口を提供してくれるだろう。
本日から来月18日まで国立新美術館で開催される新海誠展に、キュレトリアルチームのメンバーとして参加しました。館内壁面に掲示されている作中からの言葉の引用の一部と、「6つのテーマで読み解く新海誠」のコーナーを担当しています。新海作品の物語の強度を証明すべく多面的な考察を行いました。 pic.twitter.com/8EsElaHzXp
— 榎本正樹 (@enmt) 2017年11月11日
本展では、新海誠監督からファンへのメッセージも用意されている。これまで彼の作品を応援しつづけてきたファンにとって、きっと最高のご褒美となるにちがいない。そのメッセージを受け取る、ただそれだけのためにも、国立新美術館まで足を運ぶ価値はある。そう断言しておきたい。
開催情報
【会期】
2017年11月11日(土)~12月18日(月)
休館日:毎週火曜日
【会場】
国立新美術館 企画展示室 2E
【開催時間】
10:00→18:00(毎週金曜日・土曜日は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
【入館料】
〔当日〕一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
〔前売/団体〕一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
・団体券は国立新美術館のみで販売(団体は20名以上)
・中学生以下無料
・障がい者手帳をご持参の方は入場無料(付添の方1名を含む)
・11月17日(金)、18日(土)、19日(日)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)
主催=国立新美術館、朝日新聞社、東宝、テレビ朝日
コミックス・ウェーブ・フィルム、アミューズ
協賛=KADOKAWA、サントリー、大成建設
協力=WOWOW
新海誠展オフィシャルサイト
新海誠展オフィシャルTwitter
新海誠Twitter
大岡信ことば館
小海町高原美術館
国立新美術館
Text_Hiroyuki Ozawa
Edit_Sotaro Yamada
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