amazarashi Live Tour 2019のファイナル公演をレポート
2019年7月10日、amazarashi Live Tour 2019『未来になれなかった全ての夜に』追加公演が、中野サンプラザで行なわれた。4月末に大阪で始まった全国ツアーのファイナル公演だ。本記事では、ツアーの趣旨に鑑み、過去のamazarashiの歌やライブを回顧しつつ、当日の模様をお届けしたい。
Photography_Victor Nomoto
Text_Ozawa Hiroyuki
昨秋開催された武道館ライブの衝撃が、いまだ胸に、耳に、目に、頭に刻まれている。そういうファンは、筆者だけではないだろう。あれほど圧倒的なパフォーマンスを見せた次の公演は、ファンからすれば、楽しみでもあり不安でもある。なぜ不安かといえば、期待値が高すぎる分、幻滅する可能性にも想到してしまうからだ。
しかし、今回のファイナル公演は、amazarashiの集大成とも言える、画期的なものだった。構成や演出が一体となって、「過去の総括」という一つの大きなテーマを押し出していたからである。
事実、3曲目の『ヒーロー』では、舞台前面に張られた紗幕に過去のミュージックビデオ映像が次々と投影された。『夏を待っていました』『クリスマス』『アノミー』『ジュブナイル』『無題』『虚無病』。さながら過去の博覧会のような様相を呈するライブ会場に、秋田ひろむ(Gt. Vo)の歌声が力強く響く。
誰だってヒーロー そんな訳はねえよ
いわゆる掃き溜めの ありふれた有象無象
そこで負けねえと 言ったもん勝ちの
よくある強がりの 「いつだってヒーロー」
苦しい過去に、ゼロだった過去に、未来になれなかった過去に、それでも「負けねえ」と歌いつづけたamazarashiの軌跡が、紗幕にくっきりと映しだされていた。
秋田ひろむによれば、今回のライブは「過去を振り返るライブ」だ。曲の合間合間に、過去を回想するMCを挿み、その回想と縁のある歌を披露してゆく。何もなかったゼロの夜に制作した『光、再考』、青春の象徴だった亡き友を想った『ひろ』。
もし、amazarashiの最初期のライブしか知らない人が今回の『未来になれなかった全ての夜に』を見たら、MCの多さに驚くに違いない。なぜなら、ライブの終盤にたった数言のMCを挿むのが、かつての通例だったからだ。
だがMCと歌との連動は、2014年のプレミアムライブ『千分の一夜物語 スターライト』以来、amazarashiが模索してきた新しいライブの形である。秋田ひろむの朗読が楽曲の演奏を引き立て、楽曲の演奏が彼の朗読を鮮やかに彩る。
したがって、ライブツアー『未来になれなかった全ての夜に』は、形式面でも、これまでの集大成になっていたと言える。MCと歌との連動のほかに、そのことを示している例が、弾き語りだ。
13曲目の『ひろ』は、秋田ひろむの弾き語りに、豊川真奈美のキーボードだけが伴奏するという、非常にシンプルな編成で披露された。
また、17曲目の『ロングホープ・フィリア』は、完全に秋田ひろむの独奏となった。彼が菅田将暉に提供した同曲が披露されたのは、今回のツアー中、この日限り。
スポットライトは彼だけに降りそそぎ、四囲の闇が歌にふるえる。
2017年の暮れに行なった『amazarashi 秋田ひろむ 弾き語りライブ』で、自らの表現力を存分に発揮し、才能を爆発的に開花させた彼にとって、いまや弾き語りはかけがえのない武器だ。
自在に緩急をつけ、声に感情を銃弾のようにこめて歌う彼のスタイルは、このとき完成の域に達した。完成? いや、以降のライブではいよいよ豊かに、いよいよ洗練されてゆき、表現力の伸びはとどまるところを知らない。『未来になれなかった全ての夜に』で披露した弾き語りは、その最新形態である。
印象深かったのは、『ロングホープ・フィリア』を歌い終えた秋田ひろむの「ありがとうございました」という言葉が、会場の大声援にかき消されそうになったことだ。瞬間的に、いま歌われたばかりの『ロングホープ・フィリア』の歌詞が思い出された。
救ったはずが救われたっけ 握ったつもりが握られた手
「ありがとうございました」と言いたいのは、「救われた」と感謝したいのは、私たちのほうなのだ。
そして、武道館ライブでも凄絶なパフォーマンスを見せた『独白』と、かつてない壮大なアレンジの新曲『未来になれなかったあの夜に』が、立て続けに披露される。
このとき主役を演じていたのは、言葉だ。未来になれなかった夜に「言えなかった言葉」、「言ってもらいたかった言葉」。今回のライブのテーマが、前面に現れてくる。
なぜ今、amazarashiは過去を振り返るのか?
秋田ひろむは言う。「新しく始まるもののために」、「未来になれなかった全ての夜」を詳らかにし、そういう夜を終わらせに来ました、と。つまり、新しい朝を歌うために、彼は過去を遡り、夜陰に息絶えた言葉を取り戻しにきたのである。
過去の技術的蓄積を踏まえ、過去の総括というテーマに捧げられた今回のライブは、終盤、普段とは違う異様な雰囲気に包まれた。客席のここかしこから、すすり泣きの声が漏れてきたのだ。amazarashiのこれまでの物語に、自分自身の物語が呼応することで、涙が流れたのだろう。
こうして私たちは、amazarashiの過去をめぐる旅に立ち会った。いつか「新しく始まるもの」を共に迎えられれば、それは最高のゴールに違いない。
<セットリスト>
後期衝動
リビングデッド
ヒーロー
もう一度
たられば
さよならごっこ
月曜日
それを言葉という
光、再考
アイザック
季節は次々死んでいく
命にふさわしい
ひろ
空洞空洞
空に歌えば
千年幸福論
ロングホープ・フィリア
独白
未来になれなかったあの夜に
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