Brian the Sun(ブライアン・ザ・サン)がメジャー3rdアルバム『MEME』(ミーム)を3月13日(水)にリリースする。本作には、1stアルバム『パトスとエートス』の攻撃性と2ndアルバム『the Sun』のポップさが絶妙なバランスで織り混ぜられており、バンドにとっての最高傑作になったと言っても良いだろう。どのような経緯で『MEME』は完成したのだろうか。
森良太(Vo. & Gt.)、白山治輝(Ba.& Cho.)、小川真司(Gt. & Cho.)、田中駿汰(Dr. & Cho.)の4人にインタビューを行ったところ、なんと、冗談抜きで「解散」というワードが飛び出した。どうやらBrian the Sunは2018年、ひそかに危機的状況に陥っていたようだ。
いったいどういうことなのか? そうした状況から抜け出せたのはなぜなのか? そして2019年、Brian the Sunはどこへ向かうのか? 2回目の初期衝動を経て生まれ変わったBrian the Sunの本音をどうぞ。
Photography_Takaki Iwata
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Alex Shu Nissen
Brian the Sun -『Lonely Go!』MV
「自分たちの音楽もある種のミームになっているんじゃないか」
――タイトルの『MEME』には、文化を形成するための伝統や風習という意味がありますね。どんな想いを込めたんでしょうか?
森 : 情報や文化や言葉は、人づてに伝承されていくなかで自然淘汰されたり細分化されたりしていきますよね。それが遺伝子の働きに似ているということで、GENE(遺伝子)に対してMEME(ミーム)という言葉を哲学者の人が作りました。音楽の世界も似ていて、流行り廃りのなかで淘汰されたり生き残ったりしている。僕らの音楽はそういった世界をどう乗りこなしていくのか、そんな想いからこの言葉に至りました。
――サバイブしていくんだ、という強い意志ですか。
森 : 強い意志というよりも、「そういう現象があるからしゃあないよね」というニュアンスの方が近いです。そうしたなかで、自分たちの音楽もある種のミームになっているんじゃないか、そう感じられる楽曲をたくさんつくれたんですよね。だからこのタイトルがしっくり来ました。
――アートワークも印象的です。これまでのカラフル路線ではなくモノクロ。そして、唐突な馬(笑)。SNSで公開した時も、ファンのみなさんが馬にたくさん反応していました。
森 : 今は何でもアリな時代なので、「そんなに深く考えんと、できることをやった方が良い」と思ったんです。楽曲も、はじめはもっとポップな方向性でつくっていました。自分たちの方から現代の音楽に適応したがっていたんですね。それを土壇場でひっくり返したんです。ロック色の強い曲の方が、今の自分たちのやりたい音楽に近いんじゃないかと思って。
森良太
原点回帰2周目のアルバム
――ポップ路線を変えたのは何かきっかけがあったんですか?
森 : はっきりしたきっかけがあったわけではなく、僕のなかで徐々に起きた変化を反映させています。とあるライブ中のMCで、ふと「売れるのもうええわ」と言ってしまったことがあったんです。それが、すごく、本音だったんですよね。インディーズの時は仕事をしながら音楽のために生きることができたけど、メジャーデビューしてからは、生活と音楽が直結するわけですよね。つまり、しくじったら生きていけなくなってしまう。だから常に「食っていく」ということが念頭にありました。
――なるほど。
森 : そのことに対して、潜在的に違和感があったんだと思います。次第にバランスが取れなくなって、ある日、急にあふれてしまった。
――森さんがMCでその発言をした時、みなさんはどう感じましたか?
白山 : 「言わんでええこと言ったな」と思いました(笑)。
小川 : ちょっとびっくりしたね(笑)。
白山 : 僕らは付き合いが長いからその言葉が意図することを理解できたけど、言葉だけ聞いたお客さんは「じゃあなんで自分たちは応援してるんだろう」と思ってしまうかもしれない。
森 : 100%言葉で説明したとしても伝わらへんからなぁ。
――アルバムの路線をポップからロックに変えることにかんしてはどう感じましたか?
白山 : 去年、(森)良太はソロプロジェクトをやっていたんですけど、ソロとバンドで楽曲を書きわけていたという印象が僕にはありました。本当は『MEME』のような作品をつくった方が、良太としてもラクだし、気持ち良くできるんだろうなと感じて。そういう楽曲をBrian the Sunでやりたいと言ってもらえたのは、メンバーとしてすごく嬉しかったです。本当にやりたいことをBrian the Sunでやるということですから。だから「アルバムの路線を変更したい」と良太から提案を受けた時、即答で「よし、やろう!」と言った記憶があります。
田中 : 良太はもともとポップな曲もロックな曲も書ける人なので、僕はそれほど驚きませんでした。前回のアルバム『the Sun』がポップな作品で、その前の『パトスとエートス』が泥臭い作品だったので、まあ、時期によって違いがあるんやなぁと。
小川 : 僕は、バンドにはめぐりめぐって変わり続けるというイメージがあります。ポップなことを目指した時期は本当にそれをやりたいと思っていたし、今回は昨年1年間の活動を経て、全員がバンドの原点に戻るようなモードになった。だからこそ『MEME』ができたし、バンドの状況に合った作品になったと思います。
――今回のアルバムからは、小川さんがおっしゃった通り、原点回帰のムードを感じます。『パトスとエートス』のロック色と『the Sun』のポップ色がちょうど良い具合に混ざっている。
森 : 原点回帰2周目みたいな感じですね。
白山 : メジャーデビューしてから3年が過ぎ、4年目に入りました。メジャーでやることをひと通り経験してからの原点回帰なので、『MEME』にはいろんなことが含まれています。メジャーでやっていなければこういうアルバムはできなかったし、着々と積み重ねて来たものが形になったんだと思います。
小川真司
「一回、解散した方が良いんじゃないか」
――歌詞を読むと、全体的に「最近間違えていた」「やり直そう」という内容が多いですよね。たとえば1曲目の『Lonely Go!』なら「うぬぼれていたことさえ気づかずに何もかも手にした気でいたんだ」とか、2曲目の『まじでうるせえ』なら「僕は一体、今、誰なんだ」とか。このように「自分がわからなくなっていた」という内容の歌詞が、ほとんどすべての曲に入っています。
森 : ああ……特に何も考えていなかったですね(笑)。だからたぶん、本当にそういうモードだったんだと思います。というか、実際に間違えていたんでしょうね。
――間違えていたという実感があるんですか?
森 : 間違っていたかどうかはわからないけど、ひとつ思ったのは、「これから先もBrian the Sunが続いていくなんて、どうして思えていたんだろう」ということです。
――と言いますと?
森 : なんとなくみんなで仲良くバンドをやって、ライブができて、お客さんも来てくれる。それを当たり前だなんて、どうして思えていたんだろうと。1本1本のライブを、まるで当然与えられる仕事のような気持ちでやっていた時期があったんです。そして同時に、これさえやっていれば良いという甘さもあった。そのことが、すごく嫌になったんです。
――慣れのようなものが生じてしまったと。
森 : そもそも僕はテキトーな人間なので、普段からいろんなことをやり過ごしてしまうんです。他人を咎めることもないし、咎められるのも嫌。でも、そんな生き方をしていたらラチがあかないですよね。人はいつか死ぬんだし。そういうことをすごく考えたんですよ。だから、間違っていたというより、これからちゃんとしたいという気持ちです。
――それはすごく根本的な気付きですよね。なぜ、それほど根本的なことに気付けたんでしょう。
森 : 個人的なことでは、祖父が亡くなったことが影響を与えていると思います。僕は祖父に育てられたので……。バンドとしては、昨年はメンバーみんなが個人活動をやっていて、各々自分のことを考える期間でした。それが、僕としてはあまり楽しくなかったんです。
――ソロ活動が楽しくなかった?
森 : というか不安でしたね。ひとつひとつの点としては楽しいけど、すごく大事なことをおろそかにしている気がしていて。いざバンドで集まったら、バンドでいる時の自分の方がずっと自然体でした。「そうか、これをちゃんとやらなければいけないんだ」と思ったんです。
――自分の中心はここ(ソロ)ではない、という感じですか。
森 : そうですね。中途半端な気がしたんです。一回、解散した方が良いんじゃないかとも考えました。僕だけじゃなくて、真剣にそういうムードがあったと思います。
――みなさんもですか?
白山・小川・田中 : (頷く)。
――解散、ですか……。
白山 : 解散がチラついていたから、僕は余計がむしゃらに個人活動に打ち込んでいました。Brian the Sunがなくなったらどうなるんだろう、なくなっても生きていけるようにならなければいけない、そう思い続けた1年だったんです。結果的にはBrian the Sunに戻って来られたから良かったし、『ONE PEACE』の「空白の2年間」みたいな修行期間になったんですけど。
田中 : 僕は、やはり解散したくないと思っていました。Brian the Sunをずっと続けたいし、個人の活動もすべてバンドに還元できると思っていたし。
小川 : 僕もそうで、この状況でこのバンドを続けていくにはどうすれば良いかということをすごく考えました。10年先、20年先にもBrian the Sunが続いていくためには何が必要なのか。
白山治輝, 田中駿汰
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