ゴスペラーズのニューシングル『In This Room』!正統派のイメージを華麗に裏切ったと思いきや実は彼らの無数にある引き出しのひとつなのではないか説
伸びやかなコーラスワークと突き抜けてポップなメロディで注目を集め、2000年代前半にアカペラ旋風を巻き起こしたゴスペラーズ。あの時代を過ごした人ならきっと彼らの代表曲を口ずさむことができるだろうし、それよりも若い世代であれば、Little Gree Monsterによるカバーやコラボなどでその存在を知っているかもしれない。
ゴスペラーズといえば、爽やかで感動的なバラードを思い浮かべる人も多いだろう。だが、彼らがこの夏に放つニューシングル『In This Room』は、熱帯夜を想起させる濃厚なラブR&B。パブリックイメージを更新するような攻めの一手となった新曲を紐解く。
王道バラードの次の一手は、色気の漂うラブR&B
ゴスペラーズは早稲田大学のアカペラサークルで結成されたボーカルグループ。1994年にシングル「Promise」でデビューし、以来一度もメンバーチェンジや脱退をすることなく、村上てつや、黒沢 薫、酒井雄二、北山陽一、安岡 優の5人で活動を続けてきた。
今年2月には、記念すべき50枚目のシングル『ヒカリ』をリリースした。この曲で、彼らは広く知られるきっかけとなった2000年のヒット曲『永遠(とわ)に』を生み出したBryan-Michael CoxとPatrick “J. Que” Smithと再びタッグを組み、今や世界的プロデューサーとなった2人の盟友とともに、『永遠(とわ)に』にも通じる心が温まる美しいハーモニーを届けてくれた。
ゴスペラーズ 『ヒカリ』Full Ver.
ニューシングル『In This Room』でも、プロデュースにPatrick “J. Que” Smithが参加している。だが、その曲調は『ヒカリ』とはまったく異なっている。密室での一夜を想起させるようなミディアムテンポのR&Bで、色気をまとった歌声を聞かせているのだ。
ゴスペラーズ 『In This Room』Full Ver.
ルーツから紐解く、官能的なサウンドの必然性
「In This Room」の妖艶なトラックに乗せ、ゴスペラーズは「老若男女に幅広く愛されるボーカルグループ」というイメージを華麗に裏切っていく。
だが一方で、こうした路線はゴスペラーズにとってまったくの初挑戦というわけではない。代表的なものでは、1999年にリリースされた12枚目のシングル「熱帯夜」。扇情的なトラックに乗せ、ソウルフルな歌声を聴かせるナンバーで、2004年のベストアルバム『G10』のリリースに際して行われたファン投票で12位にランクインするなど、人気の高い1曲だ。
その後もアルバム曲を中心にこうした楽曲を定期的に発表しており、2017年リリースのアルバム『Soul Renaissance』に収録の「All night & every night」でも90年代後半〜00年代初頭のR&Bを彷彿とさせる官能的なサウンドを展開している。
純度の高いJポップだけではなく、もともとソウルやR&Bをルーツに持つ彼らが「In This Room」のような楽曲を歌うことは、実のところごく自然ともいえるのだ。
キャリアを重ねた今だからこそ聴かせる、抑制の効いたボーカルに注目
聴きどころの一つは、彼らの抑制の効いたボーカリゼーションだろう。20年近く前にリリースされた「熱帯夜」では、冒頭から力強くハイトーンのシャウトを響かせていたが、「In This Room」では全編を通してほとんどシャウトをしていない。力任せではない表現からは、彼らのボーカリストとしての、また大人の男性としての円熟が感じられる。
さらに、ヴァースからコーラスへの展開にも注目。コーラスでは重いグルーヴが影を潜め、恍惚としたスウィートなボーカルを堪能できる。その鮮やかな転換には清涼感さえ感じさせる。こうした部分に、彼らのバランス感覚をみることもできるだろう。曲と呼応するように、歌詩も性愛を想起させる描写から精神的なつながりを歌う内容にシフト。チルアウトしながらさらに昂揚感が高まっていくような展開は中毒性がある。
カップリングには「これぞゴスペラーズ」な1曲を収録
「In This Room」のカップリングに収録されている「Seven Seas Journey」は、11月に公開される映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』の主題歌。壮絶な家庭環境の中で育った青年が、大人になってから母と向き合い、その愛を掴み取るまでを描いた感動の実話で、青年タイジを太賀が、母親の光子を吉田羊が演じている。
映画「母さんがどんなに僕を嫌いでも」2018年11月全国公開
「Seven Seas Journey」はこの映画のための書き下ろし。作詩・作曲を担当した安岡 優は、この曲への思いを次のようにコメントしている。
「この映画には『愛されること』と『愛すること』、その両方が描かれています。主題歌には『ララバイ』であり『セレナーデ』である曲が必要でした。愛が受け継がれる歌、愛が捧げられる歌。そのどちらも感じてもらえたら嬉しいです」ー安岡 優
これぞゴスペラーズの真骨頂といえるあたたかいコーラスからはじまり、続く壮大なオーケストラがどこまでも広がっていく。劇中で描かれる親子の物語に、そして観客の心に寄り添ってくれる雄大なバラードだ。
新機軸の「In This Room」と、王道の「Seven Seas Journey」。対になる2曲は、現在のゴスペラーズの音楽性のいいとこ取りをしたような内容だ。さらに初回盤の特典映像には、ゴスペラーズのメンバーがなりたい職業に挑戦する人気シリーズ「私がゴスペラーズじゃなかったら」の最終回、安岡 優編も収録される。気になる人はぜひチェックしてみよう。
「私がゴスペラーズじゃなかったら ~安岡 優編~」ティザー映像
『In This Room』
初回生産限定盤(CD+DVD)¥1,512(税込)
通常盤(CD)¥1,080(税込)
<CD収録曲>
M1.In This Room
M2.Seven Seas Journey 映画 『母さんがどんなに僕を嫌いでも』 主題歌(11月全国公開)
<初回生産限定盤 特典映像>
「私がゴスペラーズじゃなかったら ~安岡 優編~」
SHARE
Written by