ほんとうは怖い菅田将暉 人気俳優を知るために観るべき映画5選
いま日本でもっとも勢いに乗っている俳優は誰だと思うか?と聞かれたら、多くの人が菅田将暉と答えるだろう。それくらい、いまの菅田将暉は絶好調だ。
2008年にジュノン・スーパーボーイ・コンテストでファイナリストに選出され、『仮面ライダーW』でドラマ初出演を果たすと、その後着々とキャリアを重ねる。最近ではドラマ『民王』や『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』、KDDIのTVCM『au三太郎シリーズ』の鬼ちゃん、映画『あゝ荒野』『火花』、さらにはミュージシャンとしても初のアルバム『PLAY』をリリースするなど、その活躍は枚挙にいとまがない。すっかりイケメン俳優として定着し、日本を代表する人気俳優となった。
しかし、菅田将暉の本質はイケメン・アイドル的なカッコ良さにあるのではなく、もっと野生的で文芸的な側面にある。彼に対してこの言葉が使われることは最近はあまりないが、本来は「演技派」という言葉の方がふさわしいだろう。「怪演」と呼んでもいいほどの、ちょっと怖くもあるド迫力な演技を通して菅田将暉は頭角を表してきたのだった。そこで、菅田将暉の本質が現れた代表的な映画作品を5つ、厳選して紹介します。さらに、映画に現れる本質が音楽活動にも影響を与えていることについても触れます。
『共喰い』
暴力的な性癖を持つ父に嫌悪感を抱きつつ、自分にも同じ血が流れていることに葛藤する思春期の男の物語『共喰い』(’13)。菅田将暉の映画初主演作。本作で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、その存在を広く世に知らしめた。監督は『Helpless』(’96)『ユリイカ(EUREKA)』(’00)などの青山真治。原作は田中慎弥の芥川賞受賞小説『共喰い』。
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昭和63年、山口県下関市。「川辺」と呼ばれる場所で、17歳の遠馬は父とその愛人と暮らしていた。父には「セックスの時に女を殴る」という暴力的な性癖がある。そのため、産みの母は遠馬が生まれてすぐ、彼を置いて家から出ていった。粗暴な父を疎んで生きてきた遠馬。だが、彼は幼なじみの彼女・千種と何度も交わるうちにやがて自覚していく。自分にも確かに父と同じ忌まわしい血が流れていることを――。
(映画『共喰い』オフィシャルサイトより抜粋)
神社で女を襲う菅田将暉、女の首を締めて興奮する菅田将暉、「とにかく女とやるんが好き」な菅田将暉。さらには、吉行淳之介の小説を読みながら膨張した股間をおさえる菅田将暉、風呂場で抜く菅田将暉……と、「性!(とそれに付随する暴力)」って感じの映画。
はちきれんばかりの性欲と、抑えきれない性暴力への衝動。そのはざまでの葛藤。猛々しさと暗さが全編を覆い、現在のイケメン的なイメージからはほど遠い。ガツガツしたメシの食いっぷりも良い(何かに飢えている感じがよく出ている)。もちろんR-15。
(映画『共喰い』予告編)
『そこのみにて光輝く』
閉塞感と陰鬱なムードが漂う海辺の炭鉱の街。孤独と貧困の負のスパイラルと、そこから抜け出そうとすることがテーマの『そこのみにて光輝く』(’14)。タイトルの「そこ」とは、場所としての「そこ」と、底辺としての「底」のダブルミーニング。第87回アカデミー賞外国語映画部門にノミネートされたほか、第38回モントリオール世界映画祭最優秀監督賞、キネマ旬報ベスト・テン1位のほか個人賞3部門獲得など国内外で評価が高い作品。
監督は『きみはいい子』(’15)などの呉美保(お・みぽ)。主演である綾野剛の代表作であり、池脇千鶴にとっても『ジョゼと虎と魚たち』(’03)以来の超ハマり役。菅田将暉は池脇千鶴の弟役として出演。綾野剛と池脇千鶴がキャリア最高の演技をしているなか、2人を越えてしまいそうなほどの異様な存在感と勢いがある。観た人の多くが、最終的に菅田将暉に深く感情移入してしまうのではないだろうか。
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ある出来事がきっかけに仕事を辞め、目的もなく毎日を過ごしていた佐藤達夫(綾野剛)は、ある日パチンコ屋で使い捨てライターをあげたことをきっかけに、粗暴だが人なつこい青年・大城拓児(菅田将暉)と知り合う。
拓児に誘われるままについていくと、そこは取り残されたように存在している海辺の一軒のバラックだった。
そこで達夫は拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会う。互いに心惹かれ、二人は距離を縮めていくが、千夏は家族を支えるため、達夫の想像以上に過酷な日常を生きていた。それでも、達夫は千夏への一途な愛を貫こうとするーー。
(映画『そこのみにて光輝く』オフィシャルサイトより抜粋)
パチンコ屋での登場シーンからしてすでにチンピラ感出まくりの菅田将暉。伸びっぱなしの汚い金髪に黄色い歯、だらしない服装、ダルそうな自転車の乗り方。どこからどう見ても田舎の貧困家庭の兄ちゃんで、刑務所帰りという設定でもある。気性が荒いが、実際は弱くて、無邪気で人懐こい。
綾野剛と池脇千鶴をつなぐ重要な役どころで、この映画での唯一の希望と、引き返せない決定的な絶望を呼び込む存在。記憶に残る強烈なキャラクターと演技。終盤の展開は圧倒的。こんなの観たら、誰だって菅田将暉を使いたくなる。
『共喰い』に続いて、ガツガツしたメシの食いっぷりも良い(汚いが、どこか純粋さを感じさせる)。もちろんR-15。
(映画『そこのみにて光輝く』予告編)
映画『そこのみにて光輝く』オフィシャルサイト
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『ディストラクション・ベイビーズ』
柳楽優弥が無差別に喧嘩を売りまくる映画『ディストラクション・ベイビーズ』(’16)。テレビ東京で放映されている『宮本から君へ』(’18)も話題の真利子哲也(まりこ・てつや)監督による商業映画デビュー作。日本版『ファイト・クラブ』と評されることもある。菅田将暉は、柳楽優弥に感化されて暴力のとりこになる高校生役。先に言っておくと、かなり賛否がわかれる映画。R-15ではないけど、超バイオレンス映画なので観る際には注意。
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愛媛県松山市西部の小さな港町・三津浜。海沿いの造船所のプレハブ小屋に、ふたりきりで暮らす芦原泰良と弟の将太。日々、喧嘩に明け暮れていた泰良は、ある日を境に三津浜から姿を消す──。それからしばらく経ち、松山の中心街。強そうな相手を見つけては喧嘩を仕掛け、逆に打ちのめされても食い下がる泰良の姿があった。
街の中で野獣のように生きる泰良に興味を持った高校生・北原裕也。彼は「あんた、すげえな!オレとおもしろいことしようや」と泰良に声をかける。こうしてふたりの危険な遊びが始まった。やがて車を強奪したふたりは、そこに乗りあわせていたキャバクラで働く少女・那奈をむりやり後部座席に押し込み、松山市外へ向かう。その頃、将太は、自分をおいて消えた兄を捜すため、松山市内へとやってきていた。泰良と裕也が起こした事件はインターネットで瞬く間に拡散し、警察も動き出している。果たして兄弟は再会できるのか、そして車を走らせた若者たちの凶行のゆくえは──
(映画『ディストラクション・ベイビーズ』オフィシャルサイトより抜粋)
『共喰い』で首絞め、『そこのみにて光輝く』で刃物と、次第にエスカレートしてきた暴力への欲望が本作で爆発。ひたすら喧嘩、喧嘩、喧嘩そして喧嘩! 最初から最後まで(おもに柳楽優弥が)殴りっぱなしで、デストラクション(気晴らし)で何もかもディストラクション(破壊)する。タイトルはナンバーガールの『Destruction Baby』に由来し、劇伴も向井秀徳が担当。ノイジーなギターと細かいドラムが、鬱屈した作品世界に非常にマッチしている。
『共喰い』『そこのみにて光輝く』の菅田将暉は怖さを感じさせたが、多くの人に共感できる葛藤があり愛すべきキャラクターでもあった。しかし本作の菅田将暉に葛藤はほとんど見られないし、愛すべき点もほとんどない。弱いくせに強い奴に便乗して調子こく最低の人間として描かれている。暴力をただのゲームとして楽しんでいて、しかもかなり卑怯。自分が手を下すのは女性や老人など弱い相手のみというカス中のカス。痛みを知らないから、タチの悪い遊びはどんどんエスカレートしていく。こういう人が暴力を覚えた時がいちばん危ない。
「前から、思いっきり女殴ってみたかったんすよ〜(笑)。最高やったろ〜(笑)!」
この無邪気さと軽さが暴力に結びついた時に何かが起きる。はい、もっとも恐ろしい菅田将暉、ここにいます。
(映画『ディストラクション・ベイビーズ』予告編)
映画『ディストラクション・ベイビーズ』オフィシャルサイト
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『闇金ウシジマくん Part2』
真鍋昌平の漫画を、山田孝之主演でドラマ化・映画化した人気シリーズ。映画版の第二弾『闇金ウシジマくん Part2』(’14)に菅田将暉も加賀マサル役として出演。無職のヤンキーだが、借金を背負わされ、ウシジマの事務所で働かされることに。
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ギラギラした欲望に衝き動かされた、キャラが立ち過ぎの登場人物たちによる、駆け引きや裏切り、愛憎そして絆。
闇金 VS ヤンキー VS 暴走族 VS 女闇金 VS 極道 VS ホスト VS 風俗嬢 VS ストーカー VS 情報屋、問答無用!ウシジマをめぐる八つ巴の生存競争、サバイバル・バトルが冒頭からラストまでノンストップ!!
現状に不満を抱く負け犬たち。崖っぷちから這い上がるには金がいる。ウシジマをめぐる金と欲望の匂いに群がるハイエナたちの壮絶なバトル。
ヘタを打ったら、そこでゲームセット、人生終わりーー。
生き残るのは誰!? そして、最後に残るのは金か? 希望か? それとも…
(映画『闇金ウシジマくん Part2』オフィシャルサイトより抜粋)
冒頭ではカッコ良いヤンキー風の菅田将暉だが、すぐ後のシーンでは裸で縛られ「はいっ!ありがとうございますっ!」なんて言わされる。やがて闇金取立て屋になると、ヤンキーを刺す、金を返さない奴を風呂に沈める、「脱げババア!」と恫喝して女を脱がそうとする、本気で人を殺そうとする。かと思えば、ガムテープでぐるぐる巻きにされることもあるなど、とにかく忙しい。
そのフィルモグラフィーのなかでもっともブサイク、かつ取り乱した菅田将暉を観ることができるのはおそらくこの作品。展開が早く、人気シリーズだけあってエンタメとしてとても観やすい。思わぬところでウルっとする転落と再生の話でもある。原作もドラマもPart1も観ていなくても楽しめる。
山田孝之とはこれが初共演。『闇金ウシジマくん Part2』がきっかけかどうかは不明だが、山田孝之と菅田将暉の2人で何か面白いことが始まりそうだ。
菅田山田、なんかやるみたいよ@sudaofficial #菅田山田 pic.twitter.com/E1eiTMQIhD
— 菅田山田 (@sudayamada) 2018年4月15日
(映画『闇金ウシジマくん Part2』予告編)
『闇金ウシジマくん Part2』オフィシャルサイト
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『帝一の國』
古屋兎丸による人気漫画を映画化した『帝一の國』(’17)。日本一有名な高校で、生徒会長の座をめぐって激しいバトルが繰り広げられる。菅田将暉は主人公の赤羽帝一を熱演。全編通してめちゃくちゃコミカルなのに、時々ぞっとするほどの気迫を見せる。
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全国屈指の頭脳を持つ800人のエリート学生が通う、日本一の超名門・海帝高校。政財界に強力なコネを持ち、海帝でトップ=生徒会長をつとめたものには、将来の内閣入りが確約されているという。時は4月、新学期。大きな野心を持つ男が主席入学を果たす。新1年生・赤場帝一。彼の夢は「総理大臣になって、自分の国を作る」こと。その夢を実現するためには、海帝高校の生徒会長になることが絶対条件。「ライバルを全員蹴落として、必ずここでトップに立つ…そのためならなんでもする…どんな汚いことでも…。2年後の生徒会長選挙で優位に立つには、1年生の時にどう動くかが鍵となる。戦いはもう始まっているのだ!」。だれよりも早く動き始め、野望への第一歩を踏み出した帝一。待ち受けていたものは、想像を絶する罠と試練! 友情と裏切り! 究極の格付けバトルロワイヤル! いま、命がけの「生徒会長選挙」が幕を開ける!!
(映画『帝一の國』オフィシャルサイトより抜粋)
名シーンだらけの映画。菅田将暉と吉田鋼太郎のテスト採点場面などは笑いをこらえるのが困難。勉強シーンですら面白く、勉強したくないけどしなきゃいけない、というときはこの作品で必死に勉強する菅田将暉を観るといい。たぶんやる気出るから。ヒップホップの使い方もかなり斬新。
基本的には真剣にバカを極めたハイテンション映画で、「あー面白かった!」がもっとも自然な感想だろうが、実は骨太のメッセージもある。本記事で紹介してきた「怖い菅田将暉」と同じテンションで菅田将暉がバカになりきっているので、ある意味いちばんヤバイかもしれない。
竹内涼真、志尊淳、永野芽郁など、本作をきっかけに大ブレイクした俳優も多く、2017年の邦画においてひとつの転換点だったとも言える。クリープハイプによる主題歌『イト』も映画とマッチしていて非常に良い。
(映画『帝一の國』予告編)
菅田将暉のカメレオン的才能は、音楽活動にも現れる
以上が、菅田将暉を知る上で必須と言えるおすすめ映画5作品。どの作品も映画として非常に面白い作品であることは間違いないが、こうして並べてみると、菅田将暉の幅広い役柄にあらためて驚かされる。菅田将暉が作品によってまったく違う側面を見せるカメレオン俳優だということがわかるわけだが、こうした彼の特徴は音楽活動にもあらわれている。
2018年3月21日にリリースされた菅田将暉のアルバム『PLAY』は、豪華アーティストからの楽曲提供も話題となった。米津玄師とのデュエット曲『灰色と青』はもちろんのこと、忘れらんねえよの柴田隆浩による『ピンクのアフロにカザールかけて』や黒猫チェルシーの渡辺大知による『風になってゆく』など、主にロック系の音楽と相性が良いようだ。
そうしたアーティストたちに提供された楽曲を歌う菅田将暉は、その提供元アーティストの色をうまく自分の中に溶け込ませ、ある意味で「俳優らしく」歌っている。
たとえば、amazarashiの秋田ひろむが作詞作曲した『スプリンター』という曲。
この曲、amazarashiを聴いてきたリスナーなら一発でわかると思うが、明らかに秋田ひろむが作詞作曲した、いかにもamazarashiらしい曲。このアルバムに入っていなければamazarashiの新曲を菅田将暉がカラオケで歌っていると勘違いしかねないほど、秋田ひろむイズムが強く打ち出されている。
そしてこの曲で、菅田将暉は明らかに秋田ひろむを意識した歌い方をしている。身体の奥から絞り出すような痛みのある歌い方、特に低音の使い方と力強さは秋田ひろむそっくりだ。1stシングル『見たこともない景色』やグリーンボーイズとしてリリースした『声』の時の菅田将暉とはまるで違う。
また、黒猫チェルシーの渡辺大知が作詞作曲した『風になってゆく』は、『スプリンター』とはまったく違って、渡辺大知らしい無骨さと爽快さがストレートにあらわれたロックナンバーになっている。
この2曲を聴き比べると、映画の時の菅田将暉と同じように、音楽の時の菅田将暉も、カメレオン的な才能を発揮して曲ごとに異なるキャラになりきっていることがわかるだろう。
映画の世界では「天才」と呼ばれることも多い菅田将暉だが、音楽の世界でも彼は天才なのかもしれない。この先どうなってしまうのか、末恐ろしい。やっぱり菅田将暉は、ほんとうは怖いのだ。
では、自然体の菅田将暉はどこにあるのか?
もっとも素に近いと思われる楽曲は、やはりリード曲で3rdシングルである『さよならエレジー』だろう。この曲は菅田将暉と公使ともに仲が良い石崎ひゅーいによる楽曲で、2人は朝まで飲み明かすほどの仲だという。制作には菅田将暉本人もかかわったとのこと。通じ合った者と一緒につくりあげた作品であるがゆえ、本来の菅田将暉がもっともストレートにあらわれているのではないだろうか。
(菅田将暉『さよならエレジー』MV)
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