2016年9月14日、モーニング娘。はまもなく、デビューから20年という節目の年を迎える。
しかしその記念すべき瞬間、彼女たちのステージ裏にはもう、長年プロデューサーを務めたつんく♂の姿は無い。
2014年、喉頭がんを患っていたことを発表したつんく♂は、同時にハロー!プロジェクトの総合プロデュース業からも退いた。ハロー!プロジェクトのグループが発表する楽曲がつんく♂の作品でないことは今や当たり前のこととなっている。
モーニング娘。が今年発表した新曲『泡沫サタデーナイト』も、つんく♂ではなく、赤い公園・津野米咲によって制作された。第二のラブマシーンとまで言われたこの曲は、各方面からの評判も上々だ。
モーニング娘。の結成から彼女たちを支え続け、社会現象まで巻き起こしたカリスマプロデューサー・つんく♂の姿はもうない。
そこで、このタイミングでこそ改めてこの両者の関係について考えてみたい。
モーニング娘。そして、ハロー!プロジェクトに集う『特別な少女たち』についても。
21世紀が始まった頃、新宿には椎名林檎、渋谷には浜崎あゆみ、そして原宿にはモーニング娘。がいた。
日本中がモーニング娘。に沸いた時代があった。
私たちの誰もがモーニング娘。のフォトカードを集め、私たちの誰もがモーニング娘。のニューシングルを買い、私たちの誰もがテレビに映るモーニング娘。に憧れていた。
そもそも、モーニング娘。は私たちの視線の中で生まれたグループである。
1997年、オーディション番組「ASAYAN」の女性ロックボーカリストオーディションの落選者として集められた彼女たちは、インディーズシングルを手売りで5万枚売り上げ、翌年『モーニングコーヒー』でデビューした。
まるでシナリオでもあったかのように、モーニング娘。は徐々に売れ続け、“現象”となるまでにはそう時間は掛からなかった。
いつしかアップフロントプロモーション所属のアイドルグループにハロー!プロジェクトという総称が与えられ、モーニング娘。がその代表となった。
派生ユニットも次々と生まれ、私たちは期間限定のシャッフルユニットにさえも心躍らせた。
モーニング娘。に憧れる小学生を対象に開催されたオーディション(※1)には3万人近くの応募があり、その合格者によるグループ、Berryz工房や℃-uteが生まれた。
モーニング娘。は、自らが消費される対象であることに自覚的だった。
メンバーの多くは課せられたキャラクターに忠実に振る舞ったし、終わりの見えない繁忙の中で私たちの“憧れ”であり続けた。
そして、モーニング娘。が長く続いている理由に、メンバーの追加加入と卒業制度がある。
5人体制で始まったモーニング娘。は、オーディションによって若年の新人が取り入れられ、同時に、ベテランメンバーはある程度の期間を経ると例外なく卒業していくグループとなった。
長い時間を掛けてそれを繰り返したことで、モーニング娘。は伝統芸能と呼ばれるまでの老舗アイドルグループとなり、次々と特別な少女を生み出していくこととなった。
やがて、モーニング娘。という巨大なムーブメントに対し、私たちの態度は少しずつ変化していった。
しかし重要なのは、今でもモーニング娘。およびハロー!プロジェクトが存在し続けているということである。
世間の巨大な潮流のままにオーディションを受けた小学校1年生の少女が、20歳を超えても同じ場所に立ち続けてくれているという事実を、一体誰が予想しただろうか(※2)。
加入当初、容姿しか取り柄のなかった山口の少女は、孤独な努力の末に自己犠牲の物語を紡ぎ上げ、実力主義のモーニング娘。において最終的にレジェンドと呼ばれるまでになった(※3)。
幼稚園のお遊戯会でモーニング娘。を踊り、そして憧れるようになった広島の少女は、時を経て自らが憧れられる対象となり、赤色を纏ってモーニング娘。を牽引した(※4)。
つんく♂の大胆な発想とキャッチーな楽曲によってハロー!プロジェクトはここまで成長した。
“つんく♂イズム”は決して共感を求めようとする姿勢ではない。
つんく♂がモーニング娘。に歌わせていたのは、凡庸な恋愛物語ではないからであった。
特別な少女たちによる特別な少女たちの物語はそれでも、リスナーである私たちの心を動かし続けた。
その理由はつんく♂が少女の心の芯を形容する言葉を操る能力に優れていたからだ。
つんく♂は自らの夢をモーニング娘。に託し、そしてモーニング娘。はその夢を次々と体現していった。
つんく♂とモーニング娘。は同じ時間を共有し、同じ速度で成長していったのである。
モーニング娘。にもハロー!プロジェクトにも、シナリオなど存在していなかったのだ。
2016年、新宿に椎名林檎はいないし、渋谷にも浜崎あゆみはいない。
原宿の至るところに散りばめられていたモーニング娘。の姿も、今は影さえ見当たらない。
時代は刻々と変わり続けている。
モーニング娘。は今では名前を変え、西暦が変わる度に語尾に付けた数字を増やし続けている。
私たちがモーニング娘。に見るのは、時代の移り変わりであり、現実における非凡なストーリーであり、そして継続していくことの価値である。
つんく♂がいない今、ハロー!プロジェクトが境地に立たされている、という声を耳にしたことがある。
しかし実際、ハロー!プロジェクトの勢いは止まるどころ速度を増し続けている。
“つんく♂イズム”は今でも続いているのだから――。
※1 2001年に行われたハロー!プロジェクト・キッズ オーディション
※2 ℃-ute・萩原舞
※3 モーニング娘。卒業メンバー・道重さゆみ
※4 モーニング娘。卒業メンバー・鞘師里保
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文章:福田ミチロウ(https://twitter.com/michiroo072)
イラスト:いねいみやこ(https://twitter.com/miyako0630)
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