amazarashi Live Tour 2017『メッセージボトル』が全国で開催中だ。初のベストアルバム『メッセージボトル』を3月29日にリリースしたばかりのamazarashiが行う本ツアーは全国9箇所にて開催予定で、6月3日の豊洲PIT公演はすでにソールドアウトしている。6月23日(金)には中野サンプラザで追加公演を開催することが発表された。
本記事では、先日4月2日に行われたZepp Tokyo公演の模様をレポートしたい。ツアー真っ只中ということもあり、ネタバレは極力控えるので、これからライブを楽しみにしているファンも安心して読んでほしい。
千年経っても終わらない音楽のために
『メッセージボトル』というツアータイトルについて、作詞・作曲の秋田ひろむは次のように言っている。
「メッセージボトル」というタイトルは、アマチュア時代に始めて主催したイベントのタイトルです。
その時の僕らの歌は宛のない手紙であり、願いであり、SOSでした。あの日漕ぎ出した僕らの歌の漂着地点が、今のリスナーです。
そしてここから、今日からの船出の無事を祈って、未だ見ぬ人に出会えるよう願いを込めて「メッセージボトル」どうか誰かに見つけてもらえますように。
(特設サイト『MESSAGE BOTTLE』より引用)
「アマチュア時代に始めて主催したイベント」については、ベストアルバム『メッセージボトル』完全生産限定版・初回生産限定盤に同梱されている小説『メッセージボトル』で詳しく説明されている。東京で挫折して青森に帰郷した「僕」が「死ななくていい根拠」を必死に探しながら、仲間とライブイベントを開催してゆく物語だ。あくまで小説だから、どこまでが虚構でどこまでが事実かは分からないが、「僕」の挫折や苦悩には秋田ひろむ自身のそれが明らかに投影されている。
小説のなかで、「僕」はイベントタイトルを「メッセージボトル」と名付け、その理由をこう説明する。「僕の歌を誰かに見つけて欲しいという気持ちと、憂鬱で堪え難い生活から発信するSOSという意味合いと、僕の歌がメッセージとして広い世界に漕ぎ出せたらという願いを込めたタイトルだ」。
「僕」の歌は、ライブイベントを宣伝するためにラジオにかけられる。そして、それがきっかけで、彼は音楽事務所からスカウトされ、メジャーデビューを果たすことになる。そこで小説は終わりを迎えるが、もしこの「僕」を秋田ひろむの分身と言っていいなら、
小説はamazarashiというもうひとつの物語として今もつづいている。彼が青森で投じたメッセージボトルは、場所を超え、時間を超え、物語を超えて、ぼくらリスナーのもとに確実に届いているのだから。
個人的な話だが、ぼくが初めて足を運んだamazarashiのライブは、2012年1月28日に渋谷公会堂で開催されたライブ『千年幸福論』だった。冒頭、ホールの空気を割るような秋田ひろむの咆哮が轟いたときの衝撃を今でもよく覚えている。彼はこう叫んだのだ。「音楽は千年経っても終わらない」。
音楽は千年経っても終わらない。amazarashiの音楽もまた、そうだ。彼らの音楽はボトルに詰められて、大海に投じられ、さまよい、たゆたい、だがいつかはどこかの砂浜に必ず打ちあげられる。そこで誰かに拾われるのを待ちつづけるだろう。十年でも、百年でも、千年でも。
メッセージが届く、ということにはふたつのレベルがあると思う。ひとつ目は、歌が新しいリスナーを獲得すること。ふたつ目は、同じリスナーが歌の真価を改めて知ること。ひとつ目についていえば、最近amazarashiはテレビドラマ『銀と金』とタイアップしたり、大ヒットPS4用ゲーム『NieR:Automata』とコラボレーションしたり、新しいファンを獲得しはじめている。彼らのメッセージボトルは、次々と拾いあげられているのだ。
(PS4用ゲーム『NieR:Automata』とコラボレーションしたamazarashi『命にふさわしい』MV)
ふたつ目のレベルについて話そう。
4月2日に行われたZepp Tokyo公演では、amazarashiのメッセージは時間の波にもさらわれずに届くということが再確認できた。馴染みのナンバーから、今回のツアーで初披露となる最新ナンバーまで、アルバム『メッセージボトル』の収録曲を中心に新旧バランスのとれた18曲。どれを取っても新鮮で、昔の歌にも古さなどは微塵も感じられない。秋田ひろむの高音がこの日は特に冴えわたっており、その効果も相まって、いつまで経っても切実で、ひりひりと痛い。むしろ最初に聴いたときよりも味わいが増しているとさえ言えるかもしれない。彼らの歌は何度でもぼくらの心を揺さぶってくるのだ。
『ヒーロー』を聴いて、amazarashiのこれまでのライブが急に思い出されてくる。彼らは必死にSOSを発し、メッセージを届けようとしてきた。自分たちはここだと、ときに恨み辛みも嫉妬も賛美もこめた言葉で、ときにどんな暗闇でも照らすような強い言葉で、命を燃焼させながら歌いつづけてきたのだ。その熱情が秒速340メートルを超える物理的な音の波動になってホールを震わせながら伝わってくる。胸が詰まる。
(amazarashi『ヒーロー』MV)
いつものように、ステージ前面に張られた半透明のスクリーンにはMVの映像やタイポグラフィーが次々と映写される。曲目によっては、ステージ奥のスクリーンも駆使される。音と映像と言葉が一体になった、メディアミックス的なエモーショナルなライブ体験。
ときおり、紗幕を透かして、秋田ひろむとキーボードの豊川真奈美が目配せし合っているのが見える。タイミングを計っているのだ。ライブの合間に差し挟まれる、見慣れた、ほっとする光景。同じメンバーで共に作りあげてきたサウンドのグルーヴ感もいよいよ完成の域だ。
この日のライブも、ふとした瞬間に頭のなかに甦ってくるのだろう――『つじつま合わせに生まれた僕等』を聴き終えて、amazarashiのこれからについて思いを馳せる。MVのなかで雨曝しになった秋田ひろむが訴えかけてきた言葉の数々は、リスナーのこの先の人生に決定的瞬間が訪れるたびに、時空を超えて届けられるのではないか。
(amazarashi『つじつま合わせに生まれた僕等 (2017)』MV)
歌というのは、ネットの海に泡と消える運命の、またたく間に消費されてしまう情報などではない。それはどんなに高い波頭もどんなに深い海溝も超えて、千年先にだって届く、メッセージボトルなのだ。そしてそれはいつまでも押し寄せつづける波のように、何度でもぼくらのもとに届けられるだろう。
amazarashiオフィシャルサイト
amazarashiオフィシャルTwitter
amazarashi Live Tour 2017「メッセージボトル」
amazarashi BEST ALBUM 「メッセージボトル」 2017.3.29 Release
■完全生産限定盤(スペシャルパッケージ) AICL 3302 ~ 3306\5,800 (tax out) 3CD+DVD 布張り本仕様
amazarashi 詩全集、小説、イラスト集 あまざらし miniAL「光、再考」
■初回生産限定盤
AICL 3295 ~ 3299 \3,800 (tax out) 3CD+DVD 三方背ケース、CD サイズ上製本 小説、あまざらし miniAL「光、再考」
■通常盤
AICL 3300 ~ 3301 \2,800 (tax out) 2CD
DISC1
1. 光、再考
2. つじつま合わせに生まれた僕ら
3. 夏を待っていました
4. 無題
5. 奇跡
6. ワンルーム叙事詩
7. さくら
8. この街で生きている
9. 空っぽの空に潰される
10. 美しき思い出
11. ラブソング
12. ナモナキヒト
DISC2
1. ジュブナイル
2. 性善説
3. 終わりで始まり
4. 冷凍睡眠
5. スターライト
6. ひろ
7. 季節は次々死んでいく
8. スピードと摩擦
9. 多数決
10. ライフイズビューティフル
11. 僕が死のうと思ったのは
12. 命にふさわしい
13. ヒーロー
14. つじつま合わせに生まれた僕等(2017)
DISC3 あまざらし「光、再考」
1. 光、再考
2. 少年少女
3. 真っ白な世界
4. 隅田川
5. ドブネズミ
6. 未来づくり
DVD
amazarashi BEST ALBUM 「メッセージボトル」Special Movies
1. ポエジー
2. ラブソング
3. カルマ
4. スターライト
5. しらふ
6. 美しき思い出
Text_Hiroyuki Ozawa
Edit_Sotaro Yamada
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