ある広告マンは言った。CMというものは偏差値40の人間でも理解できるものでないといけないと。
ある書店員は言った。その昔、サルでもわかると銘打ったパソコン入門書を入荷したところ飛ぶように売れたと。
では、わかりやすさだけがすべてか?
わかりやすさのみではすぐに忘れられてしまう。消費されていく。
ただし彼ら、ヤバイTシャツ屋さんは、わかりやすさ、おもしろさはじゅうぶんに持ちつつも、ただ消費されるだけでは終わらない。
音楽を、「流すもの」「消費するもの」という位置づけから、「空気の渦を作り、巻き込むもの」とし、空気の渦を自由に扱う。
巻き込まれたものは魔法にかかったかのように、その渦をかたちづくり、まるで彼らのサウンドが聞こえてくる範囲全域が波のようにうねりはじめる。
ヤバイTシャツ屋さんの、ただならぬ「ヤバみ」の秘密はライブを見たものだけが知る
(まずはこちらをチェック!ヤバイTシャツ屋さん『あつまれ!パーティーピーポー』MV[メジャー版]。パリピはハリウッドに憧れている!?)
はっじまるよ〜♪
というファンシーなSEの中、登場した全身黒の細身の男。道重Tシャツをゆったり着用したかわいらしい女。半ズボンでガタイのいい男。
このひとたち、うたのおにいさんとうたのおねえさんとゴロリかな?
うーん、半分は正解、半分は不正解だ。
彼らは自称メロコアバンド、ヤバイTシャツ屋さんのメンバーなのだ。
2017年1月31日、東京は渋谷TSUTAYA O-WESTにて、ヤバイTシャツ屋さんツアー公演『“We Love Tank-top” TOUR 2016-2017』が開催された。
大阪を拠点に活動していた彼らは今までほとんどが東京や大阪でのライブばかりで、今回は初めての全国ツアー。
「18カ所も回ったからMCで言うことがない!何カ所か来てくれた人もいるだろうし、おなじことを言ってたら『あー、あいつおなじこと言ってるな』って思われてしまう!」とMCでこやま(Gt. & Vo.)が話していたが、演奏だけでなく彼らのおもしろMCもライブの見所のひとつである。
自己紹介ひとつにもどんだけかかってんねんとつっこみが入る。
ちゃんと本当の名前を名乗るまでにどれくらいかかったか?
いろいろとある中で、カンニング竹山、陣内智則、だいたひかる(とこの流れで彼らがエンタの神様の熱心な視聴者だったということが判明する)、ギター侍、それからそれから、テイラースウィフト、ブルーノマーズ、ビヨンセ、ジャスティンビーバー、ダイヤモンド☆ユカイ(こやまが似てるっていわれるやつ)、いきものがかり(しばたが似てるっていわれるやつ)、ジャックニコルソン(もりもとが似てるっていわれるやつ。「シャイニングのときのな!」)、このあたりのキーワードで、私をはじめとする多くの観客は世代故の共通点を見いだしたことだろう。
同時に、ヤバTのメンバーはけっこうテレビっ子であることもまた判明する。
メジャーバンドだけど地元の友達みたいな奇妙な親近感をおぼえる。
序盤から一気にとばす1曲目、『We love Tank-top』。
Tシャツ屋さんなのにタンクトップの曲なの?!袖はどこ行ったん袖は?!と驚いている暇はない。
直にアンプとつないだこやまのレスポール、なんかきらきらしているしばた(Ba. & Vo.)のベース、エネルギッシュなもりもと(Dr. & Cho.)のドラム、足が勝手に跳ねちゃう邦ロックリズムにどんどん巻き込んでいく。早い。早い。どんどん加速。そして2曲目、『喜志駅周辺なんもない』。本日のツーマン共演者である打首獄門同好会によると、ヤバTがあこがれの都市としてよく挙げてくる「天王寺」は東京でいうと池袋的な存在であり、ヤバTがなんもないと愛を込めて語る喜志駅は東京でいうと埼玉県志木のあたりだという。
きしとしきの回文ミラクル!
天王寺って動物園もあるし美術館もあるし1駅となりへ行けばすぐそこに新世界もあるし、いろいろなものが混在しているイメージから個人的には上野みたいだと思う。上野も池袋も天王寺も別に住みたい街ランキングには輝くことはなさそうだとおもってしまったらもうあなたは汚いオトナになってしまった証。小さい頃は高層ビルと光り輝く摩天楼に、「ここにすみたい!」って思ったことがあったでしょう。打首獄門同好会に見事にそっくり替え歌されたこの曲、ぎゅんぎゅんとギターが振り鳴らされ、こんなん踊らずにいられるか、といったリズムが足をせかす。日本人はな、こげなコードとリズムに踊らずにゃあいられんのんじゃ!
後方ではモッシュの芽が生えてきており、ここから観客たちによるダイブがじわじわと開始される。
3曲目『無線LANばり便利』でもダイブは連発。
『DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ』は打って変わってさわやかかつ穏やかに始まり、大合唱。全員サクラちゃうかと勘ぐってしまうほどの息ぴったりな観客の合唱にエネルギーをもらったかのように曲はいっきに爆発、ステージには見えない花が咲いたよう。なんかええ匂いするやつどころか、会場はエビのようにぴちぴち跳ねる男女の汗と熱気でものすごい雰囲気だ。歌ってないではやく大麻の形したあれ買ってきてほしい。ライブハウスんなか匂いこもっちゃうと思うし、においがきつすぎて気分悪くなると思うけど。
続いて『L・O・V・E タオル』。繊維繊維繊維、のくだりで客席はタオルを回して応戦。後方のモッシュは過熱していく。やばいやばい。しばたの声のかわいさがいつにも増してたまらない一曲。○○になりたいな、○○したいな、といった歌詞が多い欲張りさんなヤバTだが、しばたのキュートなアイドルボイスにおねがいされちゃったらなんでも叶えたくなってしまう。
6曲目は問題の「天王寺」が再び出てくる『天王寺に住んでる女の子』。
しばたのキュートボイスが天王寺住みのおきゃんな女の子を想像させる。田舎に住んでることのメリットはただひとつ、終電のがしたら天王寺に住んでる女の子の家に泊めてもらえることだよね!
しばたがベースをおき、客席に向かって天王寺に住んでいる女の子と田舎に住んでいる男の子を挙手させ、泊めたりすることあるんでしょうかー?と聞くと「あるー!」と客が返答。こんなにフランクに答えていいのか!そういうものなのか!いい思い出だもんね・・・
7曲目『メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲』を聴いた人は、それぞれ青春時代に大好きだったメロコアを想起することだろう。グリーンデイを彷彿とさせるジャージャーしたギターサウンドとこやまのデス声、急にさわやかに高い声で魅せる。
この曲はとっても忙しい!ジャンプ!ジャンプ!させられたと思えばこんどはしゃがみ、一気にジャンプ。
会場は超満員で猫一匹遊ばせるスペースもないのだが、みんな協力しあってぶつからないように気をつけながらしゃがんでいく。
この観客の連帯感と筋肉と飛翔距離はすごい。直上30cmは飛んでいるだろう。
メロコアバンドのファンをやったらしょっちゅうこんな動いてタンクトップ似合う体にライザップされるんやろか。されへんわ!
SHARE
Written by