生音HIP HOPバンド。
敢えてそう書かれるようにHIP HOPという文化において音楽を表現するためのスタイルはターンテーブル+MCが定番だ。しかし、ある種異端でもあった生音HIP HOPバンドが、近年のシーンではアツい存在となりつつある。
近年一気にブレイクしたThe InternetやAnderson Paak.などソウルやR&B、ジャズなどとHIP HOP的アプローチをクロスオーバーした現在のモードな音楽においては、(あるいはEDM興隆のカウンターかもしれないが)生音によるベーシックな表現に重きをおいている。その流れはここ日本にも波及し、日本の生音HIP HOPバンドの代表格韻シストや若手ジャズHIP HOPバンドSANABAGUN.に注目が集まっただけでなく、鎮座DOPENESSや田我流などのようにラッパーが自身のバンドを率いて音楽活動を行うことも増えてきた。
そうした生音回帰の流れの中で今1つのバンドが注目を集めている。7人組生音HIP HOPバンドAFRO PARKER(アフロパーカー)。2010年に結成した彼らは翌年自主制作で1stアルバム『Lift Off』をリリースし、Amazon MP3 Storeで1位を獲得するなど確かな実績を残しながらも2012年に活動を停止。それから4年を経た2016年に突如ライブ活動を活発化、10月5日には2ndアルバム『LIFE』を全国流通させ、10月15日に渋谷VUENOSでWONK、umber session tribeをゲストに招きリリースパーティ「This is “LIFE” -2nd Album Release Party-」を開催した。にわかに動き出した彼らの4年の沈黙が何を産んだのか、ライブレポートとともに描き出す。
10月15日、渋谷VUENOS。AFRO PARKERの2ndアルバム『LIFE』のリリースパーティは、「路上ファンク」の愛称でも知られ、2015年のフジロックフェスティバルのルーキーアゴーゴーに出演したファンクバンドumber session tribeからスタート。彼ららしいタイトなリズムと熱量たっぷりのステージングでしっかりとフロアを温める。続いて登場したのはエクスペリメンタル・ソウル・バンドWONK。2016年9月のタワレコメン(タワーレコードの推薦盤)にも選出され、J-WAVEチャートでも上位に食い込むなどその人気に火がつきつつある彼らは、世界水準と評されロバート・グラスパーなどを思わせる実験的かつグルーヴたっぷりのサウンドでがっちりとフロアをロック。カラーは違えど両者ともにこれからのシーンを担っていくであろう彼らのステージは、2010年代に誕生したバンドの層の厚さをしっかりと感じさせてくれた。
そしていよいよ本日の主役AFRO PARKER。暗転し静寂が包むステージ上からおもむろにハイハットが刻まれ、ベース、ギターが順に重なりトラックが完成すると、弥之助、wakathugの2人のMCが登場。しかしその手には1m四方の謎のダンボール板。何が始まるのかと会場全体が期待と困惑が入り混じった空気が包むなか、キメに合わせて弥之助がダンボールを叩くと文字がくり抜かれるという仕掛けが用意されており、これにはフロアも大盛り上がり。アルバム『LIFE』でもSkitでクスッとさせる仕掛けをたっぷり用意していた彼ららしいオープニングだ。
そしていよいよ本編がスタート。ハードなリフとエッジの効いたビートでバウンスさせるセルフボースト曲“Get On The Mic”から、1st『Lift Off』収録の「A.F.R.P.」へとリレーし自己紹介はバッチリ。続いて弥之助のMCを挟んで披露されたのは、全員が社会人として日本各地で働く傍ら音楽活動を続ける彼らの目で、サラリーマンの不条理さや儚さをコミカルに切り取った「After Five Rapper – SHACHIKU REQUIEM-」、そして土臭いファンク調のトラックに乗せて田舎暮らしを愚痴混じりながらも愛を持って滔々と語る「The Rapper In The Rye」へ。同曲最後には田舎あるあるをJames Brown御大のようにリズミカルに連発していくという遊び心も散りばめながら、彼らのライブではほぼ毎回披露される「Welcome to Afro Park」へとつながりフロアの熱気も最高潮。ここまでで20分以上が経過したとは思えないほどあっという間に感じさせるライブ運びの卓越さには舌を巻くばかりだ。
ここまでたっぷりと盛り上げたところで、今度はwakathugがしっかりと語りかける。「これを聞いた誰かが少しでも音楽を続けてみようと思えばいい。音楽を始めてみようと思えばいい。正直なところそれだけを考えていた。言葉にするのはいつも正直な話。いつだって正直なことしかいえない。“Honesty”」
そして「Honesty」のイントロをエレピのまろやかな音が奏で、一気にチルな雰囲気が会場を包み込む。アルバム版では曲の終盤に拍子が6/8に変わるというギミックもあるのだが、ここではスムーズに次曲「Fallin’」へと繋げ、チルな空間をたっぷりと堪能させる。同曲のラストはゆったりと2曲分揺られた後に大きく開放感を感じさせるギターソロがあるあたりもしっかりと組み立てられている印象だ。
続いてステージが暗転するとギターの不穏なコードだけが響き緊迫感を演出。弥之助にスポットライトが照らされると呟くように「Paper City feat. MC BLARE」のバースに突入。静と動が入り混じる彼らの楽曲の中でもとりわけDOPEな一面を覗かせるこの曲にはフィメールラッパー、MC BLAREがフィーチャー。彼女も無名ながら、この才能が一体どこに埋もれていたのだろうかと思わせる濃密な24小節を聞かせ、3MCが声を合わせるラストフックの迫力はオーディエンスを圧倒した。
この緊張感をほぐすように彼らお得意の小ネタを交えたMCで場を和ませた後は1st『Lift Off』収録の人気ダンスチューン「Cosmic Dance」を披露。四つ打ちのわかりやすいダンスビートながらJamiroquaiのような質感も想起させるタイトなベースやスペーシーなキーボードなど細部までこだわりぬかれたグルーヴで大いに踊らせた。そしてラストソングはミュージックビデオも公開されている最新作『LIFE』のリード曲「Life Is Good」。洒落たコードを鳴らす温かいサウンドと普遍的な生きることそのものの素晴らしさを説くリリックでVUENOSは一際ピースフルな空間となり、最後はコールアンドレスポンスで会場全体が一体となり本編は終了。
もちろんこの熱気のまま帰るわけにはいかないとばかりにアンコールの拍手が鳴り響く。アンコール1曲目は 「H.E.R.O.」。カニエ・ウェストあたりの壮大さを思わせる伸びやかなビートとシンセの音が高揚感を生むこのチューンは、ファンクやジャズといった「生感」とは違い、HIP HOPの「生音再解釈」といった新たな局面を見せてくれたといってもいいかもしれない。そして本当のラストソングは、これからもまだまだ音楽を続けていくという決意も込めた「Still Movin’ On」。どこか懐かしさも感じるリードが印象的なディスコチューンでパーティは最高の盛り上がりを見せ、大喝采の締めくくりとなった。
今回は2ndアルバム『LIFE』のリリースパーティということで同アルバムに収録された全曲を堪能できた。1曲1曲が個性的でカラーの強い楽曲ながらもどこか一体感のある仕上がりになっており、更には5年前にリリースした1st『Lift Off』からも何曲か披露していたが、それらも5年の差を感じさせない程に今回のセットリストに馴染んでいた。きっとそれは1stから2ndまでの間、ブレずに自分たちの求めるHIP HOP像を追い求めてきたからであって、それが表層に現れる音は異なる個性となれど、奥底に感じる統一感に繋がっているのだろう。ポップな音像に騙されることなかれ、その裏にあるディープな音楽への愛を感じさせる新世代の生音HIP HOPバンドAFRO PARKER。彼らの今後の活躍に期待だ。
■ライブ情報
「Let’s Groove」
2016年11月13日 @六本木VARIT
時間: 18:00 OPEN / 18:30 START
共演: Especia / Special Favorite Music
「TOWER RECORDS SHIBUYA IN-STORE LIVE」
2016年11月20日 @タワーレコード渋谷店
時間: 15:00 START
特典: タワーレコード渋谷店、池袋店、秋葉原店、横浜ビブレ店にてAFRO PARKER『LIFE』(PDCR-009)をご購入頂いたお客様に先着で特典引換会参加券を配布いたします。イベント当日、特典会参加券をお持ちのお客様はライブ終了後の特典引換会にご参加頂けます。
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