シンガーソングライター・あいみょんの全国ワンマンツアー『AIMYON TOUR 2018 -TELEPHONE LOBSTER-』が3月31日に渋谷CLUB QUATTROにてファイナルを迎えた。本記事では、3月30日に行われたセミファイナルの模様をレポートする。
Text_Sotaro Yamada
Photography_Torii Yosuke
性と不安と愛というテーマ
本ツアーのタイトル『TELEPHONE LOBSTER』は、サルバドール・ダリのオブジェ『ロブスターテレフォン』に由来している。これは黒電話の受話器の部分が石膏のロブスターになった作品で、シュールレアリズムの代表的な作品と言われている。ダリの作品では、ロブスターには性的な意味が込められている。そしてダリにおける性は、不安や傷と結びついている。
この日、あいみょんが1曲目に演奏したのは『ふたりの世界』。この曲が性と不安を歌っているように(「まだ眠たくないのセックス」「自己中心的に進む恋愛とこの先の不安」といった歌詞を参照)、ダリの『ロブスターテレフォン』とあいみょんの楽曲テーマには近しさがある。
あいみょん『ふたりの世界』MV
ダリとあいみょんが描く性と不安が、相手に対する深い愛情の反映であることも共通している。ダリは妻のガラを偏執的なまでに愛していた。「わたしはガラなしではダリになれない」という言葉も残している。
そうしたことを考えると、本ツアー『AIMYON TOUR 2018 -TELEPHONE LOBSTER-』の裏テーマは性と不安、それらを導き出す「愛」なのではないかという気がしてくる。
歌詞と音と、歌声の魅力
さて、3月30日の渋谷CLUB QUATTROは超満員。外に溢れてしまうほどの人が詰め寄せ、汗をかくほどの熱気にみちていた。ライブは『ふたりの世界』からスタートし、『ジェニファー』『マトリョーシカ』『愛を伝えたいだとか』など、あいみょんを一躍音楽シーンの最前線に押し出したメジャー1stアルバム『青春のエキサイトメント』収録曲が序盤から立て続けに披露される。
先に述べた豆知識やテーマなど関係なしに、良い音楽が良い音で演奏されれば、オーディエンスはしぜんと身体を揺らすものだ。フロアを見渡すと、女性が多いように感じられたが、男性もかなりいたし、ヒールにロングスカート姿のあまりライブに来たことがなさそうな人たちも見受けられた。幅広くあいみょんの音楽が浸透し始めていることの証だろう。
中盤ではバンドメンバーが一旦退き、ギターの弾き語りで『生きていたんだよな』と、4月25日に発売される4thシングル『満月の夜なら』のカップリングに収録される『わかってない』が披露された。シンプルな演奏であるからこそ、あいみょんの伸び伸びとした歌声が強調され、あらためて彼女の声の魅力に気付かされる。とくに『わかってない』では、その透明感ある高音が際立っていた。
あいみょんがシーンに現れた時、まずは歌詞の過激さに注目が集まった。次第にその歌詞は若い女性を中心として広く共感を呼び、さらには歌謡曲に影響を受けたメロディの良さやファンクネス溢れるサウンドが話題になった。しかし今後は、その透き通った伸びのある歌声にも注目が集まるのではないか。両国国技館にて行われたギター弾き語りイベント『J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 〜YOUNGBLOOD〜 supported by azabu tailor』への出演や、FM802春のキャンペーンソング『栞』を歌うユニットRadio Bestsellersのボーカルの一員として選ばれたことなどは、その流れを加速させるかもしれない。
(余談だが、Radio Bestsellersのメンバーは、あいみょんのほか、クリープハイプの尾崎世界観、sumikaの片岡健太、04 Limited SazabysのGEN、UNISIN SQUARE GARDENの斎藤宏介、そしてスガ シカオの6人。めっちゃ豪華)
ブックオフの常連がブックオフの上でライブする?
MCでは、自身が会場の下にあるブックオフの常連であること、ブックオフに通いながらお客さんで溢れるクアトロを眺めていたこと、そしてその場所での2daysライブをソールドアウトさせられたことへの感謝などを語る。J-WAVE『SONAR MUSIC』にてDAOKOの代わりにミュージックレシーバーを務めたことも記憶にあたらしいが、あいみょん、喋りも結構イケる。
これも余談だけれど、あいみょんはツアー中にもよくブックオフに行くほどのヘビーユーザーらしい。以前行ったインタビューによると、自由が丘のブックオフで買った官能小説が、その後のあいみょんに大きな影響を与えたという。性と不安と愛というテーマが、ここでも繋がる。
『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』では、他に類を見ないほどさわやかに「死ね」という言葉が放たれる。この「死ね」は、たとえば神聖かまってちゃん『放課後のピアノ』の「死ね」とも、ミオヤマザキ『バカアホドジマヌケ死ね』の「死ね」とも違って、本当の意味での攻撃性がない。なぜなら、あいみょんの場合、楽曲の根底にあるのは深い愛情だからだ。『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』は文字通りあいみょん流の「純愛」を歌った曲だということだ。
その後、今回のツアーのためにつくった新曲『夢追いベンガル』や、『風のささやき』『君はロックを聴かない』などを演奏し、大きな拍手と声援に包まれて本編は終了。
アンコールでは4thシングルとなる『満月の夜なら』を披露。『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』とは違う角度からの甘いポップなラブソングは、あいみょんの名をさらに世間に広めることになるだろう。「新曲どうですか?」というあいみょんの呼びかけに、フロアからは「最高ー!」という声があがった。最後は『どうせ死ぬなら』で駆け抜けるように締めた。
君はロックを聴く
周知の通り、デビューから約一年で早々とMステに出演するなど、急速に支持を集めているあいみょん。この日も秋田、宮城、愛知、香川、佐賀など、遠方からあいみょんのライブを見に来た人がたくさんいた。
各方面から2018年最も注目すべきアーティストだと注目されているわけだが、あいみょん旋風はまだまだこんなところでは終わらなそうだ。ツアーはファイナルを迎え、4月10日より番外編が行われる。6月には台湾にて初の海外公演も開催予定。
「死ぬほど言葉があふれてくるから、もし歌わなくなっても曲はつくり続けると思うし、ずっと残るような曲をこれからもつくっていきたい」
こんなふうにあいみょんがMCで述べたとき、オーディエンスの心臓のBPMはおそらく190になっただろう。これから先、もっともっと多くの人があいみょんのロックを聴く。そう確信させる夜だった。
セットリスト
1. ふたりの世界
2. 幸せになりたい
3. ジェニファー
4. 好きって言ってよ
5. マトリョーシカ
6. 愛を伝えたいだとか
7. 生きていたんだよな
8. わかってない
9. 分かってくれよ
10. 〇〇ちゃん
11. 憧れてきたんだ
12. 貴方解剖純愛歌〜死ね〜
13. 夢追いベンガル
14. RING DING
15. 風のささやき
16. 漂白
17. 君はロックを聴かない
En 1. 満月の夜なら
En 2. どうせ死ぬなら
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